本記事は、新設部署のインフラ出身エンジニアと新人エンジニアのチームによる、現場での知見習得の記録として執筆しています。Agentic AIにまつわる周辺キーワードの解説から実際の構築環境・検証結果の紹介まで、導入前提を一つずつ確かめながら進めた足跡を共有します。

本シリーズは全5回:
 第1回_そもそもAgentic AIとは何なのか
 第2回_MCPがなぜポイントになるのか
 第3回_Agentic AI検証環境を作ってみた
 第4回_検証環境の評価をしてみた
 第5回_手を動かして見えてきた、導入までに考慮が必要なこと
をお届け予定です!

Index

1.イントロダクション:AIがツールを使って「考える」から「動く」時代へ

2024年11月、Anthropic(Claude開発元)は「MCP(Model Context Protocol)」をオープンソースとして公開しました。当初は主に開発者コミュニティを中心に注目されていました。

しかし2025年には状況が一変します。春以降、OpenAIがResponses APIやAgents SDKなどでMCPを採用し、ChatGPTからMCPサーバーを利用できるエコシステムが整い始めました。また、Visual Studio Codeなどにも標準で搭載されるようになりました。

なぜこれほど急速に広まったのか?それは、MCPが「AIが外部世界と接続するための共通言語」として機能し、LLMが外部のツールやデータソースと標準化された形で連携できるようにするからです。

さらに、MCPはLinux Foundationに寄贈され、ベンダーロックインを避けたオープンスタンダードとして整備が進められています。

2.MCPとは何か?

MCP(Model Context Protocol)は、LLMやAIエージェントが外部システムと安全かつ標準的にやり取りするためのオープンプロトコルです。Anthropicはこれを「AIアプリケーションのUSB-Cポート」と表現しています。

かつてスマートフォンやPCには、メーカーごとに異なる充電ケーブルや接続端子が必要でした。USB-Cの登場でその混乱は解消され、どんなデバイスも同じケーブルで接続できるようになりました。

MCPはまさにそれをAIの世界で実現します。どのAIモデルも、どのデータソースやツールとも、統一された方法で接続できるようになるのです。

MCP.png

3.従来の課題:「M×N問題」

これまでのAI連携には深刻な課題がありました。例えば、M種類のAIモデルをN種類のツールやデータソースに接続しようとすると、M×N個の個別実装が必要でした。

チャットアプリ連携、CRM連携、ERP連携、データベース連携……それぞれにカスタムコードを実装、認証を設定し、エラーハンドリングを実装する必要がありました。

MCPはこの「M×N問題」を解決します。AIモデル側はMCPクライアントを実装し、ツール側MCPサーバーを公開するだけで、任意の組み合わせが動作するようになります。

MxN問題.png

4.ばらばらだったAI連携が収束へ──MCPがもたらす標準化の波

Anthropicが2024年11月にMCPをオープンソース化して以降、BlockやApolloといった企業が早期導入を表明。開発ツール企業であるZed、Replit、Codeium、Sourcegraph、VSCodeなどがプラットフォームへの統合を進めました。

そして2025年3月、業界に衝撃が走ります。OpenAIがMCPの公式採用を発表し、ChatGPTデスクトップアプリ、Agents SDK、Responses APIへの統合を開始したのです。

続く4月には、Google DeepMindもGeminiでのMCPサポートを発表。MicrosoftもC#向けの公式SDKをAnthropicと共同開発し、Azure OpenAIやSemantic Kernelとの統合を進めています。

かつてはベンダーごとに独自の連携方式を採用していたAI業界が、MCPという共通規格に収束しつつあるのです。

さらに2025年12月には、Linux Foundationが Agentic AI Foundation(AAIF) を設立しました。Anthropic・Block・OpenAIが中心となってMCP、goose※1、AGENTS.md※2 の3プロジェクトを寄贈し、MCPはオープンで中立的な産業標準としての位置づけを一段と強化しました。

AAIFにはAWS、Google、Microsoft、OpenAIといった主要企業がプラチナメンバーとして参加し、エージェント型AIの標準化と透明性の高いガバナンスを確立しています。このように、AAIFの設立と主要プレイヤーの参加により、MCPは単なる技術仕様ではなく、エージェント型AI時代を支える基盤標準として確固たる存在感を示しつつあります。

※1 ローカルファーストで動作するオープンソースのAIエージェントフレームワークで、言語モデル・拡張可能なツール・MCPベースの標準統合を組み合わせた仕組み。

※2 AIコードエージェントにプロジェクト固有の指示やコンテキストを一貫したMarkdown形式で提供するための、シンプルで普遍的なガイドライン。

5.ITインフラ運用・構築設計者にとっての “AIによる革命” とは?

端的に言えば、「AIがインフラ管理ツールや監視システム、構成管理基盤を“直接操作できる”未来が到来しつつある」ということです。インフラ運用ツールの世界でも「AIがネイティブで操作できる環境」が急速に整い始めています。

■ AIが直接ツールを叩き、運用作業を実行する
例:
監視ツール(Datadog / Zabbix / NewRelic)
構成管理ツール(Ansible / Terraform / Puppet)
ITSM(ServiceNow / Jira Service Management)
クラウド管理基盤(Azure / AWS / Google Cloud)

これらにAIが自然言語でアクセスできるようになってきています。

① 運用AI(Ops AI)が監視データをリアルタイム参照
「過去24時間でCPU使用率が85%を超えたサーバーを一覧で教えて」
→ AIが監視ツールのAPIを叩いて即時回答。

② インシデントAIがインシデントを自動要約・原因推定
「サーバーAの直近10件のアラートをまとめて、重大度順に要約して」
→ Datadog や Zabbix からデータ取得・AI要約。

③ 構成AIが設定差分を自動抽出
「本番Webサーバー群の nginx.conf の差分を比較して、差異がある箇所だけ教えて」
→ Git管理リポジトリをAIが直接読み取り。

④ IaC(Infrastructure as Code)をAIが直接操作
「新しいVPCとサブネットをTerraformで作成して、レビュー用のPRを作って」
→ AIが Terraform コード生成 → GitHub PR まで自動化。

⑤ DR(災害復旧)シナリオの自動検証
「もしリージョンAが落ちた場合のフェイルオーバー手順を点検して、問題がある箇所を教えて」
→ ランブック・IaC・監視・構成情報をAIが横断解析。

⑥ ITSMワークフローをAIが直接進行管理
「今月のインシデント対応 SLA 達成率と、遅延した作業の一覧をまとめて」
→ ServiceNow から問い合わせ → 要約 → 自動レポート化。

6.MCPとAgentic AIの関係

前回の記事【「ただ答える」から「自律して動く」へ――Agentic AIが変えるエンタープライズ業務のあたりまえ】にて解説した通り、Agentic AI(エージェンティックAI)とは、単なる対話や情報提供にとどまらず、自律的にタスクを計画・実行するAIを指します。

 

MCPは、このAgentic AIの「手足」として機能します。AIが外部世界と接続し、実際のアクションを起こすための標準インターフェースを提供するのです。

シナリオ1:インフラ運用エンジニアの一日

  1. 朝:MCP経由でZabbix/Prometheusにアクセスし、夜間発生したアラートと対応要否を抽出

  2. 午前中:該当サーバーのログをElasticsearchから取得し、根本原因の分析と対処案を提示

  3. 対応後:ServiceNowのインシデントチケットに対応内容を記録し、関連するCI情報を更新

  4. 夕方:Slackで運用チームに本日の障害対応サマリーを自動通知

 

シナリオ2:ネットワーク導入エンジニアの一日

  1. 朝:MCP経由でNetBoxにアクセスし、本日作業予定の機器情報とラック配置を確認

  2. 午前中:既存NW構成図とConfig情報を取得し、変更作業の影響範囲とコマンドリストを生成

  3. 作業後:Netmiko経由で設定投入結果を検証し、疎通確認結果をドキュメント化

  4. 夕方:Teamsで顧客・PMに作業完了報告と次回作業予定を自動通知

 

従来であれば、各システムへの個別連携が必要でした。MCPにより、AIは統一されたプロトコルでこれらすべてを実行できるようになります。

AIは単なる「情報提供者」から、実際に業務を動かす「エージェント」へと進化するのです。

7.RAGとの違いと補完関係

MCPとRAG(Retrieval-Augmented Generation)は、しばしば混同されがちですが、その役割は明確に異なります。

RAGは「知識を増やす」MCPは「行動を増やす」ということです。以下の活用例のようにAIの行動を増やし業務の簡略化を目指すことができます。

両者の補完的な活用例:

例1:インフラ障害対応とした場合

  1. RAGで社内ナレッジベースから過去の類似障害事例・対処手順書を取得

  2. 発生中のアラートに対して的確な対処方針を提示

  3. MCPで連携したServiceNowにインシデントチケットを起票・更新

  4. MCPでZabbix/Prometheusから詳細メトリクスを取得し、復旧確認レポートを自動生成

 

例2:ネットワーク機器導入とした場合

  1. RAGで設計標準書・過去の導入事例からベストプラクティス設定を取得

  2. 顧客要件に合わせた最適なConfig案を提示

  3. MCPで連携したNetBoxに機器情報・ポート割当を登録

  4. MCP Netmiko経由で設定投入し、疎通確認結果をドキュメント化

 

例3:クラウド基盤構築とした場合

  1. RAGでAWSベストプラクティス・社内セキュリティ基準から設計指針を取得

  2. 要件に合ったアーキテクチャ構成を提案

  3. MCPで連携したTerraform Cloudにプラン実行を指示

  4. MCPでAWS APIからリソース情報を取得し、構成管理台帳を自動更新

 

RAGが「AIをより賢く」するのに対し、MCPは「AIをより有能に」します。両者を組み合わせることで、AIは知識と行動力を兼ね備えた真のビジネスパートナーとなります。

RAGおよびMCPの役割分担図

8.まとめ:AIエージェント時代の「標準インターフェース」

MCPは、AIエージェント時代の「標準インターフェース」として急速に定着しつつあります。
- AIが「相談相手」から「実行パートナー」へ進化
- CRM、MA、チケット管理など、日常ツールとのシームレスな連携が実現
- 人間は戦略的判断に集中し、ルーティン業務はAIに委任可能に

MCPはその波に乗るための、最も重要な基盤技術の一つです。

9.次回予告

MCPを活用した具体的なローカルAI環境の構築手法や、利用したMCPについて詳しく解説予定です。お楽しみに!

益行 隼平

益行 隼平

STech I入社後、HPEストレージエンジニアとしてPrimera、Alletraを中心としたストレージ基盤の設計・導入に従事。
2023年よりNutanixおよびAzure IaaS、Azure Virtual Desktop領域を担当し、オンプレミス基盤からクラウド環境まで幅広いインフラ領域に対応。
エンタープライズ、サービスプロバイダ、学術公共など多様な顧客様向けに技術支援を行い、国内導入事例が限られるNutanix機器の導入にも携わる。
2025年以降はAI・自動化領域に注力し、Ansibleやスクラッチ開発を組み合わせたソリューションにより、業務効率化・運用自動化および技術検証の推進に取り組んでいる。

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