DX推進の要としてクラウド移行を目指す企業が増える一方、複雑な既存システムが足かせとなり、移行が停滞する事態が相次いでいます。この停滞は、管理外の「野良クラウド」の発生や、新旧システムの混在による運用負荷の増大といった新たなITインフラ問題を引き起こしかねません。今回は既存システムの問題を解決し、スムーズなクラウド移行を実現するHCIについてご紹介します。

Index

クラウド移行を阻む「既存システム問題」

総務省が発表した令和7年版「情報通信白書」によると、日本のパブリッククラウドサービス市場は2029年に8兆8,164億円に達する見込みです。これは2024年の2倍を超える急激な拡大であり、ICT市場において「クラウドシフト」が不可逆的な潮流であることを裏付けています。
行政側でも、地方公共団体の基幹業務システムを2025年度末までに原則クラウドへ移行させる「自治体システム標準化」の方針を固めており、官民を挙げたシステム刷新が加速しています。
こうしたクラウド移行の動きが加速する一方で、「既存システムの複雑性」が深刻な足かせとなる事態が顕在化しています。経済産業省が2025年5月に公開した「レガシーシステムモダン化委員会 総括レポート」では、依然として61%の企業がレガシーシステムを抱えている実態が報告されました。大規模システムのモダン化には数年単位の期間を要し、複雑化した構造が原因で停滞が生じれば、さらなる長期化は避けられません。同レポートは、これらレガシーシステムが「技術的負債」となり、最新のデジタル技術を迅速に取り入れる際の大きな障壁となっていることを強く指摘しています。

なぜクラウド移行は進まない?既存システムが抱える3つの課題

なぜクラウド移行が進まないのか、既存システムが抱える課題について深掘りすると、3つの構造的な課題が浮かび上がります。


課題1.複雑化したオンプレミス環境 
課題2.コストとセキュリティ懸念
課題3.運用負荷の増大

課題1.複雑化したオンプレミス環境

特に長年運用されてきたVMwareなどの仮想化環境は、度重なるカスタマイズやパッチ適用により、もはや誰も全容を把握できない「ブラックボックス」と化しています。老朽化が進む一方で、システム間の依存関係が複雑に絡み合っているため、移行に伴うシステム停止やデータ欠損のリスクが極めて高いのが実情です。その結果、安定稼働を優先するあまり「現状維持」を選択せざるを得ない膠着状態に陥っています。

課題2.コストとセキュリティ懸念

安易な「リフト(そのまま移行)」は、クラウド特有の従量課金によって想定以上のコスト高を招くことが少なくありません。これが昨今、一部の企業で起きている「オンプレ回帰」の主因となっています。また、機密データを物理的に自社管理下から離すことへの心理的・制度的な抵抗感も根強く残っている点も無視できません。特に機密性の高い情報を扱う部門にとっては、クラウド化への意思決定を鈍らせる大きな障壁です。

課題3.運用負荷の増大

システム移行に伴うオンプレミスとクラウドの「二重管理」は、情報システム部門の負荷を倍増させるだけでなく、管理外の「野良クラウド」を増殖させる温床となります。形骸化したセキュリティ体制の立て直しに追われ、本来のミッションを見失った情シス部門の疲弊は深刻です。この現場の「負の連鎖」こそが、組織全体のデジタル変革を根底から足止めしている正体です。

クラウド移行は単なるインフラの置き換えではなく、積み重なった「技術的負債」の清算という痛みを伴うプロセスです。これら三つの壁をいかに組織的に解消していくかが、今後の企業競争力を左右するカギとなるでしょう。

解決策は「フルクラウド」ではなく「ハイブリッドクラウド」

DXの進展に伴い、一時期はフルクラウド化が正義とされてきました。しかし昨今では、コストの肥大化やパフォーマンスの問題から、クラウドから再び自社環境へシステムを戻す「オンプレ回帰」の動きが顕在化しています。これはフルクラウドが唯一の正解ではないことの表れでもあります。
オンプレミスをすべてクラウド化するのは現実的ではない、でもクラウドはフル活用したい。このような企業の現実解となるのが、オンプレミスとクラウドを戦略的に使い分ける「ハイブリッドクラウド」です。
オンプレミスの最大の利点は、「ガバナンスの確保」と「コストの予見性」です。機密性の極めて高いデータを物理的に自社管理下に置き、厳格なセキュリティポリシーを適用できる安心感は、代替しがたいものがあります。また、中長期的な運用において、従量課金に振り回されない安定したコスト構造を維持できる点も大きな強みです。
一方で、新規事業の迅速な立ち上げや、トラフィックの急激な変動への対応には、クラウドが持つ「柔軟性」と「スピード」が不可欠です。
システムの特性を見極め、安定・堅牢さが求められる基幹系はオンプレミスに、俊敏性が求められるフロント系はクラウドに配置する。この「適材適所」の視点こそが、IT部門の疲弊を防ぎ、企業の競争力を最大化させる鍵となります。二者択一の議論を脱し、両者の「いいとこ取り」をデザインする柔軟な設計思想が今、求められているのです。

ハイブリッドクラウドの鍵を握る「HCI」とは

ハイブリッドクラウド戦略においては、いかにオンプレミス側を効率化するかが重要です。ハイブリッドクラウド環境において、多くの企業が直面するのが「オンプレミス側の運用負荷」という壁です。クラウド側がどれほど俊敏でも、オンプレミス側が旧態依然とした複雑な構成のままであれば、システム全体のスピード感は損なわれ、管理工数は増大する一方です。
そこで、オンプレミス環境を「クラウドのように」効率化・シンプル化する手法として注目されているのが、「HCI(ハイパーコンバージドインフラ)」です。

HCIとは

HCIとは、サーバー仮想化に必要な物理サーバー、ストレージ、ネットワーク、仮想化ソフトウエア、統合管理ツールなどを1つのパッケージにした製品です。
これまでのITインフラは、サーバー、スイッチ、専用の外部ストレージを個別に構築・管理する「3層(3-Tier)構成」が一般的でした。しかし、この構成は管理が複雑になりやすく、障害切り分けなどの運用作業に大きく負荷がかかります。HCIはこの構成をシンプルに設計し直しました。
HCIの核心は、各サーバーの内蔵ディスクをソフトウエアで束ねて一つの巨大な仮想共有ストレージとして扱う「SDS(Software-Defined Storage)」技術にあります。これにより、以下の大きなメリットが生まれます。

メリット1:導入期間の短縮
検証済みのプラットフォームがオールインワンで提供されるため、スピーディーな導入が可能です。

メリット2:運用の劇的なシンプル化
統合管理ツールにより、一つの管理画面からサーバーもストレージも一貫して操作できます。物理的な配線や複雑なストレージ設定から解放され、運用の負荷を大幅に削減できます。

メリット3:柔軟な拡張性(スケールアウト)    
「スモールスタート」が可能で、リソースが不足した際にはサーバー(ノード)を1台追加するだけで、性能と容量を即座に拡張できます。

HCIは、複雑化した既存システムを整理し、最新のハイブリッドクラウド環境へと進化させるための「現代のITインフラの標準」と言えるでしょう。
 

 

ハイブリッドクラウドを実現する「Nutanix」

HCI製品の中でも、ハイブリッドクラウドに最適なソリューションとして、「Nutanix」をご紹介します。Nutanixがハイブリッドクラウド戦略において「本命」と目される理由は、単なるインフラの統合にとどまらず、「オンプレミスとクラウドの境界線を完全に消し去る」点にあります。
なぜNutanixが最適なのか、その決定的な理由を3つの柱で解説します。

1.オンプレミスとクラウドを併用した環境を構築

Nutanixの最大の特長は、「Nutanix Cloud Clusters™(NC2)」というソリューションにあります。これは、AWSやMicrosoft Azureといったパブリッククラウド上で、オンプレミスとまったく同じNutanix環境を稼働させるしくみです。

リファクタリング不要
通常、クラウド移行にはプログラムの書き換え(リファクタリング)が必要ですが、Nutanixはオンプレミスの仮想マシンを「そのまま」クラウドへ移動できます。

短時間でリソース拡張
急な負荷増大時でも、パブリッククラウド上のリソースをオンプレミスの延長線として短時間で展開可能です。

2.「Prism」による一元管理

ハイブリッドクラウドの最大の悩みは、オンプレミスとクラウドで管理画面や操作ツールがバラバラになる「運用の断絶」です。
管理ツール「Nutanix Prism」は、世界中の拠点にあるオンプレミスのHCIも、AWS・Azure上のNC2も、すべて一つの画面から一元管理できます。操作感が統一されるため、管理者は「今触っているのがクラウドかオンプレか」を意識する必要がありません。これにより、クラウド移行に伴うエンジニアのスキル再教育コストを最小限に抑えられます。

3.ライセンスのポータビリティ

多くのベンダーでは、オンプレミス用とクラウド用で別々のライセンスを購入する必要がありますが、Nutanixは「ライセンスの持ち運び」が可能です。

投資の最適化
「最初はオンプレミスで購入し、3年後にクラウドへ移行する」といった場合でも、ライセンスをそのままクラウド側に引き継げます。

オンプレ回帰への対応
万が一、コスト面などでクラウドからオンプレミスに戻したくなった場合でも、ライセンスが無駄になりません。この柔軟性が「オンプレ回帰」も視野に入れた現代のIT戦略に合致しています。

VMware環境からの移行先としてもNutanixは強く支持されています。ハイブリッドクラウドを「運用のゴール」とするならば、Nutanixは最も近道となるプラットフォームと言えるでしょう。

「クラウド+HCI(Nutanix)」で既存システム問題を解決する3ステップ

それでは、既存システムをクラウド+HCIの構成に移行する手順をご紹介します。

ステップ1:既存環境のアセスメントと「仕分け」

最初のステップは、ブラックボックス化している既存環境(主に長年運用されてきたVMware環境など)の徹底的な棚卸しです。現状を可視化し、各システムを以下の2軸で「仕分け(アセスメント)」します。

クラウド向き(Azure、AWSなど)
 トラフィックの変動が激しいサービス、新規事業のアプリケーション、バックアップ、災害対策用データなど。俊敏性と拡張性が求められるシステム。

オンプレミス向き(HCIなど)
機密性が極めて高い基幹データ、大量の定常処理が発生しクラウドではコスト高になるシステム、低遅延(ローレイテンシ)が求められる工場・現場の制御システムなど。

「すべてをクラウドへ」という極端な発想を捨て、データと業務の特性に応じた適材適所の配置を決定することが、失敗しない移行の第一歩です。

ステップ2:HCIによるオンプレミス基盤の刷新

次に、オンプレミスに残すと決めたシステム群を、モダンなHCI基盤へと移行します。ここで特に推奨されるのが、「Nutanix AHV」などの次世代HCIプラットフォームへの移行です。

ライセンス費用の抑制
近年、従来のVMware環境はライセンス体系の変更に伴う大幅なコスト増が課題となっています。Nutanix AHVのような独自のハイパーバイザーを採用することで、ライセンス費用を抑制しつつ、高機能なインフラを手に入れることが可能です。

ステップ3:統合管理によるハイブリッドクラウド運用

最終ステップは、刷新したHCI基盤と既存のパブリッククラウド環境をシームレスに連携させる「統合管理」の実現です。ここでカギとなるのが、「Nutanix Cloud Manager(NCM)」などハイブリッドクラウド管理ツール(CMP)の導入です。

「野良クラウド」の撲滅とガバナンス
各事業部門が勝手にクラウドを契約する「野良クラウド」を、管理ツールがスキャンして発見し、IT部門が一括制御します。誰が、どのリソースを、いくら使っているかを可視化し、全社的なガバナンスを効かせます。

一元管理による運用の標準化とコスト最適化
マルチベンダー、マルチクラウド環境を単一の窓口で管理し、コストを最適化します。どの部署が、どのクラウドで、いくら使っているのかを把握し、使っていないリソースを削除したり、安価なインスタンスへ変更したり、といったことが可能です。

ハイブリッドクラウド戦略に関するFAQ

ハイブリッドクラウド戦略を検討する際、経営層や現場の担当者が抱きがちな疑問をFAQ形式でまとめました。

Q: 運用が「オンプレ」と「クラウド」で二重になり、手間が増えませんか。

A: 従来通りの運用では手間は増えます。しかし、HCI(Nutanixなど)や統合管理ツール(Nutanix Cloud Managerなど)を導入することで、両環境をひとつの画面で操作できるようになります。「クラウドのような操作感」をオンプレミスにも持ち込むことで、運用の断絶を防ぎ、むしろ全体的な効率を向上させることが可能です。

Q: クラウドは「使った分だけ」で安いイメージですが、オンプレミスの方が安いこともあるのですか。

A: はい、あります。クラウドは従量課金のため、データ転送量が多いシステムや、リソースを常にフル活用するシステムでは、月額費用が予想外に膨らむことがあります。長期的に安定して稼働するシステムは、固定資産(CAPEX)としてオンプレミスで運用する方が、5年間のトータルコスト(TCO)で安くなるケースが多々あります。

Q: セキュリティ面で、クラウドにデータを置くのが不安です。

A: 「データの内容」で分けるのがハイブリッドの定石です。例えば、顧客の個人データや知的財産は堅牢なオンプレミス(HCI)に置き、Webフロントや分析基盤などの機動性が必要な部分はクラウドに置く、といった「データの階層化管理」を行うことで、ガバナンスと利便性を両立できます。

Q: 「野良クラウド」がすでに発生しているのですが、どう対処すべきですか。

A: 禁止するのではなく「統合管理下」に取り込むしくみが必要です。各部署が個別に契約したクラウドを情報システム部門側で一元的に可視化できるツールを導入しましょう。利用状況やコストを透明化することで、セキュリティポリシーを適用しつつ、事業部門のスピード感を損なわないガバナンス体制を構築できます。

まとめ

最後にここまでの内容を振り返ります。

 

  • クラウド移行が加速する一方で既存システムの複雑性が深刻な足かせとなり、クラウド移行が停滞する問題が顕在化している
  • 既存システムは「複雑化したオンプレミス環境」「コストとセキュリティ懸念」「運用負荷の増大」を抱えている
  • フルクラウドが唯一の正解ではなく、オンプレミスとクラウドを戦略的に使い分ける「ハイブリッドクラウド」の構築が現実解である
  • ハイブリッドクラウド戦略においては、いかにオンプレミス側を効率化するかが鍵となるため、オンプレミス環境をクラウドのように効率化・シンプル化する手法として「HCI」が注目されている
  • HCI製品の中でも「Nutanix」はオンプレミスとクラウドをシームレスに管理でき、VMware環境からの移行先としても支持されている
  • ハイブリッド戦略は「仕分け」「HCIによるオンプレミス基盤の刷新」「統合管理によるハイブリッドクラウド運用」の3ステップで進める

 

クラウド移行で既存システムが足かせとなる場合、個別の製品導入では解決できません。自社の戦略に合わせて「ハイブリッドクラウド」の全体設計が不可欠です。
STech Iでは、Azure・AWS、Nutanix、HPE製品などを組み合わせ、最適な提案を行います。お客様の戦略に基づいたハイブリッドクラウドの全体デザインから構築・運用までワンストップで支援します。ご興味ある方はお気軽にご相談ください。

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