「ERP再生計画」著:鍋野敬一郎氏

業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第98回「中堅規模の商社・卸売業は「物売り」から「稼ぐ仕組み売り」へ~ERPとフィジカルAIが中堅機械商社のビジネスモデルを変える理由~」をご紹介します。

はじめに

 AI脅威論をAI開発企業と、米中AI開発競争に負ける訳にはいかないとするトランプ大統領でAI開発に関する意見の食い違いが生じています。既にAIが次世代AIを開発する状況となり、人間の制御を受け付けない動きが頻発していることからAI専門家が心配するAI脅威論には一応の説得力があります。中間選挙しか考えていないトランプ大統領の、米中AI開発競争に負けたくないという話も一理あるように見えますが、さて本当の脅威は中国なのか、あるいはまもなく登場する汎用型AI(AGI:Artificial General Intelligence)なのでしょうか。いずれにしても、汎用型AIの登場によって大きく社会構造や人の役割が変化することは避けられないでしょう。
 さて、今回はERPとフィジカルAIが産業界をどのように変えて行くのか、ということについて前回よりも具体的にお話したいと思います。もちろん、少し未来の話なので可能性や仮説程度のレベルです。しかし、具体性を持たせるためにERPは商社・卸売業に実績と事例の多いGRANDIT(ERPシステム)の機能とデータとフィジカルAIによるユースケースでお話したいと思います。

自社も顧客も人手不足は同じ、ここをフィジカルAIのスタート地点と考えてみる

人手不足:人が採れないことはもはや前提条件

帝国データバンクによると、正社員の不足を感じている企業は過半数(51.3%、2026年7月より)で、この状況が改善する可能性は低いです。機械商社にとって、これは二重の意味で重い。ひとつは自社の社員が不足して、倉庫のピッキング、納期回答、見積作成、増え続ける取扱品目などの管理です。これらの作業は、どれも人手を前提にした業務です。もうひとつはお客様企業の人手不足です。取引先の企業、工場も同様に人が採れていません。製造業のなかでも機械整備・修理の有効求人倍率は4.43倍(2023年より)で全職種平均の1.19倍と比較すると全く足りていないことが分かります。つまり、ここに機械商社の商機があります。お客様が最も困っているのは、価格ではなく、人がいないことなのです。そして人手不足を解消する手段を提案できる商社は、価格以外の強みを持つこととなります。

ECの拡大:「物売り」の状況は同業者ではなくECサイト

間接資材のECは、機械商社が長期にわたって守ってきた領域を侵食しています。モノタロウやトラスコ中山などは無人棚搬送ロボットや自動梱包機を整えた物流拠点で膨大な品揃えを実現しています。(モノタロウ:総取扱品目2885万点うち在庫保有品目数68.8万点、トラスコ中山:総取扱品目714万点うち在庫保有品目数62万点)検索して、翌日届くECの利便性に、カタログと電話・FAXで挑むのは言うまでもなく勝ち目がありません。これに対して、工作機械や工具を仕入れて卸す専門商社はECの普及で単純な物売りの競争が厳しくなるなか、自ら部品の加工や設備工事を請け負い、本業とコト売りの二刀流で成長を目指す例が増えているとニュースで報じています。製造業から専門人材を迎えてノウハウを得る商社も現れています。つまり差別化の軸は、既に「何を売るか」から「売った後に何ができるか」へ移っていると考えられます。

GRANDIT(ERP)のデータは半分も利用されていない

機械商社がGRANDITなどERPシステムを導入した目的は、大半の場合、業務効率化と経営の可視化です。月次決算早期化、在庫数量の正確な把握、部門間で不整合が無い数値は経営にとって有効です。しかし、このデータを更に詳細に分析すると「どの顧客が、どの設備を、いつ買ったのか。どの消耗品を、どれくらいの周期で発注しているのか。どの品番が、どの季節に動くのか。」という記録が正確に分かるのです。これらは単なる業務記録ではなく、顧客の設備がいつ止まりそうか、顧客の次の発注は今月なのか来月なのかを推定するための有効な情報だと言えます。フィジカルAIとは、AIがリアル世界の設備やロボットと繋がってAI自らが判断して物理的に動く仕組みです。商社にとっての使いどころは、自社倉庫の自動化だけではなく、顧客の設備やロボットに後付けのセンサーやAIカメラを取り付けて稼働データを取り、このデータと予測に基づいた提案を出すことができるところです。顧客のためのフィジカルAIという発想がポイントとなるのです。

(図表1、「物売り」から「稼ぐ仕組み売り」へ)
拡大
(図表1、「物売り」から「稼ぐ仕組み売り」へ)

機械商社フィジカルAIの3つの打ち手「倉庫・現場・契約」

 具体的には、以下3つが考えられます。いきなり顧客の設備にセンサーやAIカメラをつけさせて欲しいというのでは話になりません。まず、自社倉庫で成果を出して、その現場と実績と効果(ROI)を目で直接見てもらって判断してもらうやり方が上策です。ボトムアップで上申や稟議に時間を掛けるより、自社倉庫で事例を作ってこれを提案するやり方こそ最短かつ説得力があります。中堅規模の機械商社ほど優位となります。GRANDIT(ERPシステム)が導入済みであること自体が、大きなアドバンテージになります。フィジカルAIの精度は、結局のところ学習させるデータの品質と頻度とボリュームで決まります。品目マスタと品番が整い、取引履歴が一元化され、在庫の動きが正しく記録されている企業と、部門ごとにExcelが散らばっている企業とでは、同じセンサーを付けても引き出せる答えがまるで違うことは言うまでもありません。基幹システムは、フィジカルAIの前提条件と言えます。

(図表2、3つの打ち手 「倉庫・現場・契約」)
拡大
(図表2、3つの打ち手 「倉庫・現場・契約」)

取り組むべきは、顧客がやらなくてよい仕事を、こちらが引き受けること

 さて、具体的にどのような提案を顧客である機械メーカーや部品サプライヤーへ提案すれば良いのでしょうか。その答えは、顧客がやらなくても良い仕事を、こちらで引き受けることです。以下に3つの提案例をご紹介します。

提案1、消耗品の発注作業をゼロにする
工場の資材担当者は、ボルトや切削工具、手袋といった副資材の残量を目で確かめ、減ってきたら発注します。この作業は一円の付加価値も生みません。そこで重量センサー付きの棚を置き、残量が一定を下回った時点で商社側へ自動的に発注が飛ぶ仕組みを組みます。つまりVMIであり、その狙いは「クライアントを在庫管理から解放する」ことです。顧客が得るのは、発注作業の消滅と欠品リスクの低下です。商社が得るのは、取引の固定化と、日々の消費データです。この消費データが、GRANDITに蓄積された取引履歴と結びついた瞬間、需要予測の精度は一段上がることになります。

提案2、部品を「使う順番」で届ける
機械メーカーの組立現場では、複数のサプライヤーから届いた部品を受け入れ、検品し、仕分けてから組立に回しています。この前工程は、本来メーカーが抱えなくてよい仕事です。
商社が近隣に倉庫を構え、複数サプライヤーの部品を集約して、組立順にキット化して必要なタイミングで納めることができます。この方式によって機械メーカーが工場内在庫を5%削減し、事務工数と梱包作業工数を減らし、生産遅延トラブルを減らすことができます。在庫を減らしながら、欠品も減ります。一見矛盾するこの結果は、在庫を持つ場所を工場から商社側へ移したからこそ成立するのです。

提案3、アフターサービスの足かせを外す
収益に大きく効くのはこの提案です。マッキンゼーの分析によれば、アフターマーケットのサービス事業は、設備そのものの販売と比べて最大4倍の利益率を生む可能性があるそうです。ところが日本企業のサービス売上比率は28%にとどまり、まだまだ提案の余地があります。伸ばせない理由のひとつが、サービスパーツ管理の厄介さです。補修に必要なのは5個なのに、仕入先の最低発注数量は100個。その差が在庫となって滞留してしまいます。さらに、保守用に確保した部品を生産側が使ってしまい、サービスが止まるという事故も起きます。ここで商社が最低発注数量を引き受け、必要な数を必要なときだけ供給します。メーカーは保守在庫を持たない(最小限に減らす)ことでアフターサービスを伸ばせることになります。マッキンゼーの分析では、多くのサービス施策がわずか3〜6ヶ月で収益効果を発揮するとも指摘しています。

(図表3、3つの提案:顧客の手間を、引き受ける)
拡大
(図表3、3つの提案:顧客の手間を、引き受ける)
(図表4、具体的なテーマと効果と得るコト」)
拡大
(図表4、具体的なテーマと効果と得るコト」)

 今回は、機械商社のフィジカルAIについて分かりやすく説明しました。具体的な進め方として、3つの提案をご紹介しました。当然3つを同時に始める必要はありません。まず自社倉庫への導入から取り組んで、顧客に提案していきます。そうすれば、「物売り」から「稼ぐ仕組み売り」へビジネスモデルを変えていくことになります。
 

双日テックイノベーションのGRANDIT導入事例はこちら

カテゴリー

タグ

お気軽にご相談ください。

Exhibitions & Seminarsイベントセミナー

資料ダウンロード

関連ソリューション・関連製品

ProLabs(プロラボス)
ProLabs(プロラボス)
ProLabsは高品質かつ低価格のサードパーティ製光トランシーバーを提供いたします。業界標準規格品やベンダー互換品など豊富な製品ラインナップを揃えております。

ProLabsは高品質かつ低価格のサードパーティ製光トランシーバーを提供いたします。業界標準規格品やベンダー互換品など豊富な製品ラインナップを揃えております。