業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第97回「中堅規模の商社・卸売業のためのフィジカルAIを先行事例から学ぶ~商社・卸のフィジカルAIはERPと物流が中心に高い効果が期待できるその理由~」をご紹介します。
フィジカルAIと言う言葉が、ニュースやネットで大きく取り上げられています。
そのほとんどが製造業のフィジカルAIでAGV/AMR自動搬送機や人型ロボット、ロボットアーム、自動倉庫などのマシンが製造ラインで稼働しているものばかりです。フィジカルAIは製造業の生産ラインというイメージが強いようですが、商社・卸売業にこそフィジカルAIは高い効果を出せるのですが、意外に知られていません。これは恐らくメディアやベンダーがフィジカルAIに対するイメージを偏ったかたちで伝えていることにあると思います。今回は、商社・卸売業のフィジカルAIについて具体的な事例も交えて、分かりやすくご説明いたします。
商社・卸売業のフィジカルAIとそのポイント
フィジカルAIの話をすると、大抵いつも話の内容が「ロボットを買うか、買わないか」という話になってしまうようです。AGV/AMRなど搬送機やロボットアーム、自動倉庫や最近ではヒューマノイドロボット(人型ロボット)のどれにするかという話ですが、これはいずれも大きな投資が必要となります。一番安いモノでも1台当たり数百万円の投資と維持費用が必要です。大手の商社・卸にとっては問題ない投資ですが、中堅規模の企業では出来るだけ投資を絞りたいところです。フィジカルAIとは、物理的な現実世界に人工知能を組み合わせた技術です。物理的なデバイスとAIを連携・統合して、リアルタイムでデータを処理しながら自ら意思決定を行う仕組みです。生成AIは、PCやスマートフォンの画面の中で言葉やプログラムを扱います。フィジカルAIはその端末がロボットや設備・モビリティなどです。そして、商社・卸では、この物理的なデバイスは物流・倉庫にあるロボットが対象となります。フィジカルAIを紐解くと、実際には3つの層から構成されています
前述した通り、フィジカルAI導入でイメージするのはAGV/AMR搬送機やパレタイズ用のロボットアーム、自動倉庫などです。ですが、③動作層から始めるのは莫大な投資が必要となるためこれは後にします。①知覚層から着手して、そのデータ蓄積を行ってから、②判断層でAI解析してどうすれば良いかを決めてから、③必要な動作層のロボットを絞り込みます。中堅の商社・卸向けの取り組みとしては、この順番でムダなく着実に進めることが出来ると思います。ここでよくある勘違いが、自動化とフィジカルAIの違いです。
商社・卸売業のビジネスは、特に卸の倉庫は多品種で扱う商品が年々増えていきます。季節による変動やトレンドによる爆発的な需要変動が当たり前の業界です。決まった計画にそった従来の自動化が、上手く行かないのはこの予測できない変化が大きいと思います。従って、フィジカルAIは変化に対する即時対応を高度AIが支えるため、その弱点が克服されつつあると言えます。この判断層に蓄積されるデータは、ERPシステムと物流システムの詳細かつリアルタイムに更新されるデータが中心となります。

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- (図表1,商社・卸売業のフィジカルAIとは)
フィジカルAIの先行事例①アズワン社が物流を自動化して得たこと
アズワンは、研究用機器や消耗品、看護・介護用品等を扱う理化学機器商社です。2026年3月期の連結売上高は1,106.9億円で16期連続の増収、営業利益は128.3億円(過去最高)、当期純利益91.7億円、ROEは13.3%にも達しています。研究・産業・医療という3分野に対し、4,100社・13,000拠点の販売店を通じて商品を販売しています。アズワンの物流投資は、2020年に稼働したスマートDC(千葉)から、2023年度に阪神DC、2025年度に九州DCを新設し、現在は5拠点体制で全国をカバーしています。2020年に稼働したスマートDCの東京物流センターでは、それまで約3割だった機械化率を7割程度まで大幅に引き上げています。当時の売上高676億円でありながら、村田機械の自動倉庫システム、MUJINのロボット、シャープ製AGVなどを組み合わせ、マテハン設備だけで約35億円(決算説明ではロボットを含め約50億円)を投じています。これによって、保管能力は1.5倍、出荷能力は2倍に拡大しています。フィジカルAIとして注目されるのは、ロボットアームによるパレタイズロボットです。MUJINのAIコントローラを搭載することで、ロボットに教え込むことなく自律的に制御しています。パレットの上に積まれた荷物が崩れていても、箱のサイズがバラバラであっても、AIと高精度カメラの補正の組み合わせで最適かつ最速の作業を行います。コンベヤを流れる荷物はその間にサイズと重量を計測され、そのデータを基にシステムが搬送先の荷姿に合わせて積み方を自動計算・指示します。知覚層で測り、判断層で計算し、動作層で積むという三層の連携・統合が、ここで見事に完成しています。
さらに、2025年度の九州DCではマテハンとして棚搬送AGVを導入して、ピッキングの省人化を実現しています。AGVは、既存のDCにも後から導入することが出来ます。まず1つの拠点で導入に成功してから、順次、次のDCへ展開するというやり方が出来ます。
アズワンが、動作層のロボットと同等以上に重視しているのは判断層への投資です。その内容はサプライチェーンの最適化を目的として、調達先・配送ルート・配送手段・在庫数・棚ロケーション・在庫倉庫といった変数を動かし、配送コスト・時間・作業効率をデジタル上で効果測定する取り組みを進めています。これによって、最短配送ルートを算出して配送距離を大きく削減することに成功しています。

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- (図表2、参考:アズワン社のフィジカルAI事例)
フィジカルAIと言えば製造業とヒューマノイドロボットやAGV/AMR自動搬送機という先入観があるかもしれませんが、その言葉を鵜呑みにするとメディアやベンダーの思惑通りに高い投資となります。商社・卸売業のフィジカルAIは、顧客特性を見極めて「価格」よりも「品質・納期」が重視されること。納品、構内配送、据付、メンテナンス手配などのサービスを重視していて、求めているのは「必要な時に、必要な量を調達したい」という顧客ニーズを満たすことで、低価格競争から脱却することにあります。目的を絞って、順次集中投資を繰り返すことで、フィジカルAIを売上/収益の拡大に生かした戦略だと言えます。
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