製造業や物流業界では、人手不足への対応や生産性向上を目的として、AGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)やAMR(Autnomous Mobile Robot:自律走行搬送ロボット)、AGF(Auto Guide Forklift:無人搬送フォークリフト)の導入が急速に進んでいます。

しかし、導入した企業からは次のような声をよく耳にします。
「PoCでは問題なかったのに本番運用で停止が増えた」
「突然ミッションを中断する」
「ベンダーはロボットに問題ないと言う」
「現場ではロボットが使えないという評価になっている」

実際、多くの現場で発生している停止トラブルの原因は、ロボット本体ではなくネットワークにあります。特にWi-Fiを利用している環境では、オフィス用途とは異なる設計が求められるにもかかわらず、一般的な無線LAN環境をそのまま流用しているケースも少なくありません。

本記事では、AMR導入時に発生しやすいネットワーク課題を中心に「なぜWi-Fiがボトルネックになるのか」という根本原因からAGV・AMRを安定稼働させるネットワークの設計ポイントを、前編・後編の全2回にわたって解説します。

Index

なぜAMRはWi-Fiに依存するのか

まず前提として理解しておきたいのは、現代のAMRは単なる搬送機器ではなく、ネットワークに接続された「ITシステム」だということです。

一般的な構成は以下のようになります。

AMR

Wi-Fi

フリート管理サーバ

WMS/MES/ERP

AMRは常時以下の情報を送受信しています。
・現在位置情報
・走行指示
・障害物情報
・バッテリー状態
・ステータス情報
・タスク情報
つまりWi-Fiの品質低下は、「搬送設備の通信障害」だけではなく、「ロボットの制御系障害」に直結します。

特にAMRは自律走行を行うため、通信が途絶えた場合には安全を優先して停止する設計が一般的です。その結果、情シス担当者から見れば「ちょっとWi-Fiがつながりにくくなった」だけであっても、現場から見れば「急にオペレーションが止まった」という認識になります。

よくあるAMRの停止原因

本節ではAGV/AMRの運用現場でよくみられるネットワーク課題をあげていきます。
 

課題① ハンドオーバーの失敗 -最も多い停止原因-

AGV/AMRの停止原因として最も多くみられるのがハンドオーバーの失敗です。
ハンドオーバーとは、移動中に接続先のアクセスポイント(AP)を切り替える仕組みです。例えば倉庫内に複数のAPが設置されている場合、AMRは「AP-1→AP-2→AP-3→AP-4...」のように接続先を変更しながら走行します。

しかし、切り替え処理に時間がかかると、
・数秒間通信断
・パケットロス発生
・セッション切断
が発生し、結果としてAMRが停止します。

人がスマートフォンを使う場合は多少通信品質が悪くても、そこまで問題となることはないかもしれません。しかしAMRは違います。数秒の通信断でも安全停止のトリガーになるためです。

それゆえ、情シス担当者は「Wi-Fiがあるかどうか」ではなく、「移動体通信向けに設計されているか」という観点から検討する必要があります。

課題② 電波強度不足-工場・倉庫はオフィスと別世界-

オフィスで問題なく使えるWi-Fiでも、工場や倉庫では簡単に通信品質が悪化します。
理由は電波を遮蔽・反射する物体が圧倒的に多いためです。

代表例は以下です。
・金属ラック
・パレットラック
・フォークリフト
・配管
・工作機械
・鉄骨
・コンテナ
・シャッター

特に高層ラック倉庫では深刻です。通路中央では問題なくても、横方向へ数メートル移動しただけで電波が急激に減衰することがあります。

「前は問題なかった」が危険
特にWi-Fi設計時は問題なかったにもかかわらず、運用開始後に障害が増えるという声がよく聞かれます。
主な原因は以下です。
・レイアウト変更
・設備追加
・在庫増加
・棚配置変更

つまり工場や倉庫の環境そのものが常に変化しているのです。

課題③ 電波干渉-電波は見えないため気付きにくい-

Wi-Fi障害の中でも特定が難しいのが干渉問題です。
工場には想像以上に多くの電波利用機器があります。

例えば、
・Bluetooth
・ハンディターミナル
・RFタグ
・ワイヤレスヘッド
・Webカメラ
・IPカメラ
・無線マイク
・産業用無線機器
などです。

特に危険な2.4GHz帯
Wi-Fiで使用される2.4GHz帯は便利であるがゆえに、非常に混線しやすい周波数帯です。オフィスでは問題なくても、工場内でBluetooth端末、スキャナ、無線センサーなど、接続デバイスが増えると急激に混雑します。
その結果、通信遅延や再送増加、パケットロスが頻発します。

電波干渉による障害は、発生場所が一定しなかったり、特定の時間帯しか発生しないなどの特徴があるため、原因特定自体がそもそも難しいのです。

課題④ AP過負荷-「電波強度≠通信品質」-

「電波強度=通信品質」というのは、現場で非常に多い誤解です。
例えば、「RSSI-45dBm」であっても停止するケースがあります。

理由は、接続端末数の増加によるAPの過負荷です。
最近の現場では、ノートPC、タブレット、スマートフォン、IPカメラ、ハンディ端末、AGV/AMRなど、多数の機器が接続されています。
その結果、APそのものが帯域不足になります。

最近増えているのがIP監視カメラです。IP監視カメラからは高解像度の映像が継続的に通信されます。その結果、例えば監視カメラ20台+AMR10台が同じAPへ接続すると、AMRの制御通信へ大きく影響が出ることもあります。

課題⑤ オフィス向けWi-Fi設計の限界-AGV・AMRは特殊な端末-

情シスが見落としやすい点があります。それは、AGVやAMRは「ノートPCではない」ということです。

オフィスでは、メールやチャットツール、Webブラウザといったアプリケーションが中心です。
一方AMRでは、
・常時通信
・移動体接続
・リアルタイム制御
・ミリ秒単位の応答
が求められます。つまり、必要な設計思想そのものが全く異なるのです。

AGV/AMRに適切な無線ネットワーク構築を検討している方へ
▶ローカル5G Celona の詳細へ

PoCでは成功したのに本番で失敗する理由

PoCは通常、AMR1台、限定エリア、で実施されます。
しかし、本番環境になるとAMRの台数は数十台規模、利用エリアも敷地全域となります。この差が「PoCでは問題なかったのに本番運用で停止が増えた」の直接的な原因となります。

しかし、この問題はより深堀りしていく必要があります。というのも、通常AGV/AMRベンダーはネットワークの専門家ではないからです。
AGV/AMR導入で成果をあげるためには、AMRベンダーと現場担当者だけでなく、ネットワークベンダー、情シス担当者などの関係者が密に連携してプロジェクト推進する必要があります。

逆に「Wi-Fiは情シス担当」「AMRは現場担当」と分断されている組織ではトラブルが起きやすくなります。

まとめ

AGV・AMRの停止原因として、ロボット本体を疑う企業は少なくありません。
しかし実際には、多くのトラブルがWi-Fi環境に起因しています。
特に注意すべきポイントは以下の5つです。

1.ハンドオーバーの失敗
2.電波強度不足
3.電波干渉
4.AP過負荷
5.オフィス向けWi-Fi設計

AGV・AMRを安定稼働させるためには、「Wi-Fiがつながるか」ではなく、工場や倉庫など、常に変化する環境において「移動するロボットを確実に制御できるか」という視点でネットワークを設計する必要があります。

移動体通信向け無線ネットワークの設計という観点から検討した場合、従来のWi-Fiではなく、ローカル5Gが重要な選択肢になりえます。

後編では、なぜローカル5Gが工場や倉庫などの常に変更する環境において、移動するロボットを確実に制御するための無線ネットワークとして最適なのかを解説します。

投稿者名 畑和之
プロフィール 双日テックイノベーションでプライベート・ワイヤレスネットワークのプロダクトマネジメントを担当。趣味はスポーツ観戦。あと、猫を2匹飼ってます。

執筆者
畑 和之

双日テックイノベーションでプライベート・ワイヤレスネットワークのプロダクトマネジメントを担当。趣味はスポーツ観戦。あと、猫を2匹飼ってます。

 

カテゴリー

タグ

お気軽にご相談ください。

Exhibitions & Seminarsイベントセミナー

資料ダウンロード

関連ソリューション・関連製品

ProLabs(プロラボス)
ProLabs(プロラボス)
ProLabsは高品質かつ低価格のサードパーティ製光トランシーバーを提供いたします。業界標準規格品やベンダー互換品など豊富な製品ラインナップを揃えております。

ProLabsは高品質かつ低価格のサードパーティ製光トランシーバーを提供いたします。業界標準規格品やベンダー互換品など豊富な製品ラインナップを揃えております。

っっさあ

テキスト