生成AIの進化やクラウドの普及を背景に、ネットワーク運用の自動化は新たな段階へと進みつつある。近年注目を集める「自律型ネットワーク」とは、AIや自動化技術を活用し、ネットワークの分析・構成・障害対応・運用・最適化・監視といった一連の業務を、人の介在を最小限に抑えながら実行するしくみを指す。
AIによる判断や運用への期待が高まる一方で、現場では「すべてをAIに任せる」ことへの戸惑いや限界も見え始めている。技術はどこまで実用化され、何がまだ人の判断に委ねられているのか。
ネットワークの設計・構築から運用・保守までを支援してきた双日テックイノベーションの担当者への取材を通じて、その境界線を探っていく。

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- ネットワークインテグレーション事業本部 事業推進部 一課
マーケティングマネージャー 杉浦 隆裕
ネットワーク運用の分野では「AIOps」や「AI Networking」といった言葉が、運用自動化を語る際の共通言語として使われるようになってきた。いずれも、AIを活用してネットワークの運用や最適化を高度化する取り組みを指す概念であり、その延長線上に「自律型ネットワーク」という理想像がある。
こうしたキーワードが注目を集める最大の背景には、ネットワーク運用を取り巻く環境が、もはや人手中心の管理では対応しきれない状況が挙げられる。
● クラウドとオンプレミスが混在するハイブリッド構成の複雑化
● SaaSの利用拡大に伴うトラフィックの増大
● リモートワークの普及や拠点分散による接続形態の多様化
ネットワークは年々複雑さを増し、その変化のスピードも加速している。
一方で、運用体制は必ずしもその変化に追いついていない。多くの企業では、ネットワーク運用が特定の担当者の経験や暗黙知に依存したまま属人化しており、障害発生時の原因切り分けや判断に時間を要するケースが少なくない。
人材不足が慢性化する中、人に依存する運用モデルを維持し続けること自体がリスクとなりつつある。
このような制約が顕在化する中で、ネットワーク運用を自律型に近づけるための条件が少しずつ整ってきている。生成AIの登場をはじめとする技術進歩により、AIは特別な存在ではなく、業務を支える技術基盤として社会に浸透し始めた。
こうした背景のもと、AIOpsやAI Networkingは自律型ネットワークを実現するためのツールとして期待されている。ただし、自律型ネットワークは一足飛びに到達できるものではなく、段階的な取り組みが前提となる。
ただし、自律型ネットワークは一足飛びに到達できるものではなく、段階的な取り組みが前提となる。
では、業界全体は今、どこまで自律化に近づいているのか。
ネットワークの設計・構築から運用・保守まで、さまざまな現場を支援してきた杉浦は、こうした問いに対し、現場視点から次のように語る。
「いまAIで実現できる自律化と、現場運用者の期待値との間には、一定のギャップがあるように感じています。現場では、AIが自動でネットワークを最適化し、障害は予測されて自動で復旧する。インテント*1(運用の意図)を入力するだけで構築できる、といった期待を持たれることが多いのですが、実際の成熟度はそこまで到達していません」(杉浦)
*1 インテント:「特定アプリの通信を最優先にしたい」「重要システムは必ず冗長経路を通したい」など、意図や目的を言葉で表したもの。
PoC(概念実証)は各社で進んでいるものの、実運用フェーズにおける自律化のレベルはまだ限定的だ。
「データ品質やインテントの定義、セキュリティといった前提条件が整わないままAIを導入すると、結果的に部分的な自動化にとどまってしまいます。事実、最上位の自律型ネットワークまで到達しているユーザーは、世界的に見てもわずか6%程度に過ぎません。インフラ刷新や運用設計が追いつかない限り、完全な自律化は現状だと難しい状況です」(杉浦)
「AIOpsはログや通信データを解析して初めて真価を発揮しますが、実際には必要なデータが十分に取得できていなかったり、取得できていても活用を前提に整理されていないケースが少なくありません。現実のネットワークはマルチベンダー構成が一般的で、メーカーごとにログの形式や取得できる情報が異なります。マルチベンダー環境そのものが悪いわけではありませんが、AI活用を前提に考えると、データの統合や正規化をどう進めるかが大きなテーマになりますね」(杉浦)
人であれば経験や調査によって柔軟に吸収できていた差分も、AIにとっては明確なハードルとなる。結果として、分析や自動化の範囲が限定され、部分的な活用にとどまってしまうというわけだ。
「もう一つ大きいのは、最終的な判断をどこまでAIに任せるのか、という点です。これは技術というより、組織やガバナンスの問題ですね。AIの提案をそのまま実行することに慎重な企業が多く、現場ではAIの分析結果を参考にしながら、最後は人が判断する形が現実的です。責任の所在やリスクの取り方を考えると、いきなり完全な自律化に踏み切るのは難しいと言えます」(杉浦)
これらの課題を踏まえると、自律型ネットワークは一足飛びに実現できるものではないことが見えてくる。
では、具体的にどの領域からAIOpsやAI Networkingを活用すべきなのか。現実的なAI活用のアプローチと、人とAIの役割分担についても伺った。
現在、実用化が進んでいるのがAIOpsによるネットワーク状態解析や障害分析の領域だ。
「従来は、障害が起きるとエンジニアがログを集めてひとつひとつ確認しながら状況を整理していました。現在はAIが通信データやログを解析し『いまネットワークがどのような状態にあるのか』を提示してくれます。原因を断定するわけではありませんが、優先的に確認すべき箇所が分かるだけで対応時間は大きく変わります。分析をAIが担うことで、人は判断や対応といった、本来注力すべき業務に集中できるようになります」(杉浦)
障害分析の領域ではすでに、作業時間の短縮や対応品質の平準化といった効果が現場で確認されている。
「無線LANの分野でも、AI活用はかなり進んでいます。以前は現地で電波状況を確認しながら人がチューニングしていましたが、いまはAIが電波の弱い箇所や混雑しているポイントを検知し、自動的に出力や設定を調整してくれます。現場のレイアウト変更や人の動きによって環境が変わっても、継続的に最適化できる点は大きなメリットですね。影響範囲が比較的限定されているため、現場でもAIに任せやすい領域だと感じています」(杉浦)
こうしたネットワーク運用では、日常的な調整作業の負荷軽減に加え、利用者からの通信品質に関する問い合わせ削減といった効果も現れ始めている。
これらの取り組みに共通しているのは、AIが最終判断を下しているわけではないという点だ。
「今はまだ過渡期です。ネットワーク制御をいきなり全てAIに任せるのではなく、まずは解析や可視化など、直接サービスに影響しない“人の判断を支える領域”から使っていくのが現実的だと考えています。実装のハードルが低い領域で知見を積み重ね、徐々にAIに任せられる範囲を広げていくことが、自律化への近道になります」
ネットワーク全体をAIが管理する自律型ネットワークに到達しているユーザーは、世界的にもまだ少数派だ。しかし、ネットワーク運用の自動化が当たり前になるのが確実にやってくる状況だからこそ、現実的な一歩をどう踏み出すかが問われている。
人手に依存した運用から段階的に脱却し、AIを「判断を支えるパートナー」として組み込んでいく。そのプロセスをどのように設計し、現場に定着させていくのか。
段階的なネットワーク運用の自律化を支える双日テックイノベーションの解決アプローチと、その強みについて杉浦は次のように答えてくれた。
「メーカーが提供するAIプラットフォームを活用し、お客様の課題に対して実運用に適した形で届けることを重視しています。市場で多くの実績があるHewlett Packard Enterprise(以下HPE社)などのメーカーの技術を土台にすることで、導入スピードやコスト面での優位性を確保できるのが強みです。メーカーとの連携力を活かし、製品特性を理解したうえで実運用に落とし込むことを大切にしています」(杉浦)
これまでの導入・運用支援の実績と高度な技術力により、HPE Juniper Networkingのサポートサービスにおける世界最高評価のパートナーアワードを国内初で受賞*2するなど、メーカーからの評価も高い。
双日テックイノベーションの最大の強みは、デバイスレベルからネットワーク全体までを見通せる高度な技術力にある。長年にわたるネットワーク事業の実績により、特にHPE Juniper Networkingの製品を中心とした深い知見を蓄積してきた。
その具体例が、ネットワーク自動化プラットフォーム「Routing Director」だ。同製品が備えるAIOps機能「LLM Connector」では、運用担当者が自然言語で問いかけるだけで、AIがネットワーク状態や障害要因を解析し、該当機器やインタフェース、BGP*3の状態などを即座に提示する。
*3 BGP(Border Gateway Protocol):インターネット上で「どの経路を通って通信するか」を制御するしくみ)
こうした機能を備えるネットワーク機器の導入支援により、人がログを一つずつ確認する作業を省き、判断に必要な情報を短時間で整理する業務の自動化を実現している。
「当社の検証環境には、Routing Directorのようなネットワーク自動化ソリューションを実際に導入した検証設備があります。メーカー製品を単体で検証することはもちろん、AI Networkingを含めたより広範な運用シナリオを想定した検証ができる環境を用意しています」(杉浦)
双日テックイノベーションの高い技術検証力を支えるものとして、同社が保有する技術拠点「STech I Pier One」の存在は欠かせない。ネットワークやAI活用を含む先進技術を、実環境に近い形で検証できる場として機能している。

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- 双日テックイノベーションの拠点の1つである先進の技術サポートセンター「STech I Pier One」
最新鋭の検証環境を備えたPoC(概念実証)ラボエリアを備え、あらゆる検証が可能
現場に近い形で挙動や影響範囲を確認しながら、どこまでをAIに任せ、どこに人の判断を残すべきかを事前に整理できるため、導入後のギャップを最小限に抑えた提案が可能だ。
ネットワーク運用を担う企業の多くは、AIによる自動化に期待を寄せている一方で、サービスへの影響が大きな運用への適用には慎重で、期待と懐疑が同時に存在しているのが実情である。
こうした現場の率直な温度感を踏まえ、杉浦は次のように語る。
「AIを入れること自体が目的になってしまうと、AIOpsやAI Networkingはうまく機能しません。AIはあくまで手段なので、まずは解決すべき課題や運用のあり方を明確にすることが重要です。私たちは、ツールの話に入る前に、現状の課題を棚卸しし、お客様の環境に対して、最適なAIの活用を見極めてご提案しています」(杉浦)
ネットワーク運用の自動化は技術導入がゴールではない。AIと人の役割を整理し、実運用まで伴走できるパートナーかどうかが成否を分ける。自律型ネットワークへの道筋を描くにあたり、構想段階から伴走できるパートナーとして、双日テックイノベーションの支援を視野に入れてみてはいかがだろうか。
※部署名・役職名は取材当時のものです(2025年12月時点)。
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