穂刈智也

商社や卸売業の現場では、これまで売上拡大や在庫最適化、物流効率化といったテーマがDXの中心に置かれがちでした。
もちろんそれらは今も重要ですが、ここにきて見過ごせなくなっているのが、取引そのものの妥当性をどう見極めるかという論点です。国際情勢の変化を背景に、輸出管理規制は年々複雑さを増しており、確認すべき範囲も、品目だけでなく用途、需要者、さらにはサプライチェーン全体へと広がっています。商社にとって安全保障貿易管理は、もはや一部門だけの実務ではなく、経営判断に直結するテーマになったと言えます。

こうした流れを象徴する動きとして、2026年4月には、日立ソリューションズが「安全保障貿易管理ソリューション」にAIエージェントを追加し、顧客審査や該非判定を支援する機能の提供を始めました(※1)。公開情報や社内データをもとに、判断根拠を整理したレポートを自動作成し、審査時間を約60%短縮したとされています。安全保障貿易管理の分野でも、属人的な確認作業を減らし、仕組みで判断を支える方向へと実務が動き始めていることがうかがえます。

(※1) https://www.hitachi-solutions.co.jp/company/press/news/2026/0415.html

トレードコンプライアンスとは何か

ここであらためて整理しておきたいのが、「トレードコンプライアンス」という考え方です。
これは、輸出入に関わる法令や規制に沿って、取引先、貨物、技術、用途、出荷先などを適切に確認し、問題のある取引を未然に防ぐ取り組みを指します。商社や卸売業では、営業が案件を持ち込み、技術部門が仕様を確認し、管理部門が審査を行うという流れが珍しくありません。だからこそ、法務や貿易管理の担当者だけに任せるのではなく、営業、物流、調達、管理が同じ基準で動ける体制を整える必要があります。

該非判定と顧客審査をどう考えるか

実務の中でも特に重要なのが、該非判定と顧客審査です。
該非判定は、扱う貨物や技術が規制対象に当たるかどうかを確認する作業ですが、経済産業省は、該非判定を国が行うものではなく、輸出者が責任を持って実施するものだと明記しています。判断に迷う場合には製造者の該非判定書を参考にすることはできますが、最終的な責任は輸出者側に残ります。つまり商社には、必要な情報を集めるだけでなく、社内で確認し、判断し、その根拠を説明できる状態まで整えることが求められます(※2)(※3)。

(※2) https://www.meti.go.jp/policy/anpo/qanda31.html
(※3) https://www.meti.go.jp/policy/anpo/matrix_intro.html
 

では、なぜ商社では情報管理が属人化しやすいのか

トレードコンプライアンスが難しいのは、必要な情報が部門ごとに分かれて存在しているからです。
営業は顧客情報を持ち、技術部門は製品仕様を持ち、物流は出荷情報を持ち、管理部門は規制や審査履歴を見ています。これらがメールやExcel、個別システムに散在したままだと、同じ案件でも確認の前提がそろわず、どうしてもベテラン社員の経験に頼る場面が増えてしまいます。継続取引先の定期的なチェックや、高リスク案件への重点対応が必要だと分かっていても、運用が人手頼みでは限界が出てきます。

そこでAI活用への期待が高まるわけですが、AIだけを後から追加しても、元になるデータがばらばらでは、当然十分な効果は出ません。顧客審査、該非判定、取引審査、輸出入実績の確認までを一連の流れとして見渡せる基盤があって、はじめてAIの提案にも納得感が生まれます。これからの商社DXで問われるのは、AIを入れることそのものではなく、AIがきちんと働ける業務基盤を用意できているかどうかです。

ERPでトレードコンプライアンスを強くする

その意味で、あらためて重要になるのがERPです。
ERPで受発注、在庫、会計、物流、貿易関連の情報を統合管理できていれば、どの案件にどの顧客情報がひも付き、どの製品がどの判断を経て出荷されたのかを追いやすくなります。トレードコンプライアンスは、単独の審査業務として切り離して考えるより、商流全体の中で管理するほうが実務に合っています。審査だけを個別に強化するのではなく、基幹業務とつなげて運用する視点が欠かせません。

SAP S/4HANAやOracle E-Business Suiteのような外資ERPは高機能な選択肢ですが、日本企業では検収、手形、都度請求、掛取引といった商慣習への対応で個別開発が増えやすく、その結果として保守や更新時の負荷が重くなりやすいという指摘があります。商社・卸売業では、こうした積み重ねが全体最適を難しくすることもあります。
一方、国内製ERPのGRANDIT(※4)は、商社向けアドオンテンプレートを活用しながら、統合管理、短期導入、運用保守までを一気通貫で支援できる点が特長です。安全保障貿易管理を現場任せにせず、AIも活用しながら持続的に回していくには、ERPを単なる基幹システムではなく、判断と説明責任を支える経営基盤として見直すことが、結果的に近道になるのではないでしょうか。
 

双日テックイノベーションの「GRANDIT」事業についてはこちら

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