サステナビリティ開示というと、何を思い浮かべますでしょうか。
経営企画やIRの領域だと受け止められがちですが、実際に問われるのは、現場に点在する情報をどう集め、どう使える形に整えるかという実務です。
商社・卸売業では、販売、購買、物流、在庫、会計が複雑につながっているため、必要なデータだけを後から集めようとしても限界があります。
2026年6月にSSBJ(サステナビリティ基準委員会)実務対応基準が公表されたことで、非財務データを継続的に扱える業務基盤の重要性は、これまで以上にはっきりしてきました。
非財務データは、なぜ会計データのようにまとまりにくいのか
会計データは、勘定科目や締め処理のルールに沿って日々蓄積されていきます。
一方、非財務データは、どこにあり、誰が持ち、どの単位で管理しているのかがそろっていないことが少なくありません。商社・卸売業では、この差が特に大きく表れます。
商品は同じでも、販売部門は取引先や売上実績、購買部門は仕入先や調達条件、物流部門は輸送や保管の実績というように、部門ごとに見ている情報の粒度も更新のタイミングも異なるからです。
販売、購買、物流に散らばる非財務データは、あとから集めるほど扱いにくい
この状態で排出量や調達関連の情報が必要になってから集めようとすると、Excel、台帳、メール、個別システムを行き来することになります。数字自体は現場にあっても、経営や開示でそのまま使える形にはなっていません。
結果として、確認、転記、突き合わせといった作業が積み上がり、毎回の対応が属人的になりやすくなります。非財務データは「ない」のではなく、「使える状態になっていない」ことが多いのです。
SSBJ実務対応基準の公表は、こうした実務上の課題をあらためて可視化した出来事だといえます(※1)。
(※1)https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards.html
SSBJ実務対応基準の公表で、何が実務課題として見えてきたのか
2026年6月11日、SSBJはサステナビリティ開示実務対応基準第1号を公表しました。
2025年3月に公表されたサステナビリティ開示基準に続き、今回は国内制度との接続を踏まえた実務面が一段具体化した形です。ここで重要なのは、制度の名称を覚えることではありません。企業がどのデータを、どの根拠で、継続的に扱える状態にしておくべきかが、より現実的な課題として示されたことです。
SSBJ実務対応基準とSHK制度は、企業に何を求めているのか
今回の実務対応基準第1号は、温対法におけるSHK制度の定める方法で測定・報告した温室効果ガス排出量を用いて、「気候基準」の定めに従う場合の開示を扱うものです。
SHK制度とは、温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度のことです。
つまり、排出量データをどう測るかだけでなく、それを開示実務に耐えうる形で持ち続けられるかが問われているわけです。一度だけ必要な数字を集めて終わるのではなく、継続的に説明可能な形で管理していくことが前提になります。商社・卸売業では、仕入、輸送、保管、販売の各工程に関連する情報が分かれているため、管理部門だけで後から取りまとめようとすると負荷が大きくなります。今回の公表は、非財務データを業務の外側で管理するのではなく、日々の業務の流れとつなげて扱う必要性を示しているといえるでしょう(※2)。
(※2)https://www.ssb-j.jp/jp/ssbj_standards.html
商社・卸売業のERPは、非財務データをどう扱うべきか
こうした状況を踏まえると、非財務データ対応は別の台帳や別システムを増やすだけでは解決しません。商社・卸売業では、販売、購買、物流、在庫、会計の情報と結びついて初めて、非財務データが意味を持つからです。求められるのは、必要な時だけ数字を取り出せることではなく、日々の業務の中で追える状態にしておくことです。
たとえば販売実績だけを見ても、その背景にある調達条件や物流の実態が分からなければ、非財務情報との関係は見えてきません。逆に、非財務データだけを別管理にすると、開示のたびに突き合わせ作業が必要になります。会計データと同じように、非財務データも業務の流れの中で位置づけておくことが重要です。ERPは単なる情報の置き場ではなく、販売、購買、物流、会計の関係性を保ちながら、経営に使える形でデータを管理する基盤として考える必要があります。SSBJ対応をきっかけにERPを見直す意味は、まさにそこにあります。
開示対応で終わらせず、経営に生かすERPへ
SSBJ実務対応基準への対応は、必要なデータを一度集めて報告することが目的ではありません。継続的に把握し、必要なときに説明できる状態を、業務の中でどう維持するかが重要です。そこまで考えると、非財務データ対応はERPの見直しと切り離せなくなります。
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重要なのは、報告用の数字をつくることではなく、それを経営判断に生かせる状態にすることです。商社・卸売業では、取引や物流の実態を伴わない数字だけでは、実務に根づきません。SSBJ実務対応基準の公表は、開示制度がまた一つ増えたという話ではなく、非財務データを業務と切り離さずに扱える基盤を持てているかを問う出来事でもあります。開示対応をきっかけに、ERPを経営に生かす視点で見直すことが、これからの競争力につながっていくはずです。
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