穂刈智也

米国向けビジネスを持つ商社・卸売業では、通関や製品安全に関わるデータ対応が、ここ数年で重くなっています。なかでも今回のCPSCによるeFiling義務化は、単なる申告手段の電子化ではありません。問われるのは、どの商品にどの適合証明情報がひも付くのかを、日々の業務の中で説明できる状態にあるかどうかです。

これまで、証明書は共有フォルダ、品番は販売管理、仕入先情報は別台帳という形でも、現場の工夫で回っていた企業は少なくないでしょう。
ただ、取扱商品や取引先が増えるほど、そのやり方は人に依存しやすくなります。今回の制度対応は、そうした運用の限界を見直すきっかけとして捉えたいところです。

eFiling義務化で、商社・卸売業の実務は何が変わるのか

JETROによると、2026年7月8日から、米国消費者製品安全委員会(CPSC)の規制対象製品を輸入する際、適合証明書データの電子申告、いわゆるeFilingが義務化されました(※1)。対象は子ども向け製品に限られず、家庭用品、家具、衣類、電気製品など幅広い消費者向け製品に及びます。輸入卸経由で米国市場に商品を流す企業はもちろん、越境ECに関わる企業にとっても無関係ではありません。

ここで押さえておきたいのは、eFilingが「証明書を電子で送る」だけの話ではないことです。輸入時点で、どの製品がどの安全規則に該当し、どの試験や証明に基づいて適合しているのかを、電子データとして結び付けて示すことが求められます。商社・卸売業で見れば、これは通関部門だけのテーマではありません。商品情報、仕入先情報、証明情報が社内でどう管理されているか、その整い方がそのまま問われます。

特に商品点数の多い企業では、SKUなどの製品IDごとに、どの証明情報が対応するのかを追えるかどうかが実務の分かれ目です。
担当者の経験や記憶で補う運用では、件数が増えたときに限界が来ます。
(※1) https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2026/51b45a62a123691b.html
 

なぜ適合証明データは、現場で管理しづらいのか


適合証明データの扱いが難しいのは、情報が存在しないからではありません。多くの場合、必要な資料はどこかにはあります。問題は、必要な場面で、必要な形ですぐ取り出せないことです。

たとえば、品番や商品コードは販売管理、仕入先や製造元の情報は購買、試験成績書や証明書は品質保証や営業の共有フォルダ、輸出実務に関わる情報は物流、というように、情報の置き場も責任部門も分かれがちです。さらに、保存形式もPDF、Excel、メール添付などさまざまです。こうなると、「このSKUに対応する証明書はどれか?」「最新版に更新されているか?」「仕入先変更後の情報は反映済みか?」といった確認が、毎回個別対応になります。

JETROも、多品目を扱う企業では、どの製品がどこで製造され、どの規制に該当し、どの安全検査を受けたかを製品ごとに整理・管理する負担が大きいと指摘しています(※1)。
商社・卸売業では、取扱商品が多いだけでなく、仕入先の切り替えや代替品対応も起こりやすいため、この負担がさらに表面化しやすいといえます。

言い換えれば、現場を苦しめているのは証明書の有無ではなく、商品、仕入、出荷の情報と証明データが切り離されていることです。

ERPで問われるのは、証明データを業務フローの中で持てるかどうか

ここで改めて見直したいのがERPの役割です。
eFiling対応で必要なのは、証明書PDFの保管場所を増やすことではありません。受発注、在庫、仕入、出荷といった日常業務の流れの中で、必要な証明情報を商品単位で参照できる状態をつくれるかどうかです。

商品マスタ、仕入先情報、ロットや入荷情報、関連証憑がつながっていれば、確認のやり直しは減らしやすくなります。反対に、制度対応のたびに管理表や補助ファイルを継ぎ足していくと、運用は複雑になる一方です。
SAP S/4HANAやOracle EBSのような外資系ERPは、グローバル標準の考え方に強みがありますが、日本の商社・卸売業で多い個別運用まできめ細かく合わせようとすると、追加対応が必要になるケースもあります。結果として、導入後の運用設計や保守の負担が増えることもあります。

今回のeFiling対応をきっかけに考えたいのは、ERPを『会計のための基幹システム』としてだけではなく、証明データも含めて業務を支える基盤として捉え直すことです。

eFiling対応を機に、商社・卸売業のERPを見直す

eFilingは、見方を変えれば米国向け輸出実務のひとつの制度変更にすぎません。ただ、現場の視点で見ると、商品情報、仕入先情報、証明情報、出荷情報が社内でどうつながっているかを見直す、わかりやすい契機でもあります。目の前の申告だけを乗り切るやり方では、次の制度対応でも同じ確認作業を繰り返すことになるからです。

これからの商社・卸売業のERPに求められるのは、販売、購買、在庫、会計をつなぐだけではなく、『制度対応に必要な証憑や関連データまで業務の中で扱えること』です。双日テックイノベーションのGRANDIT構築サービスは、商社・卸業務の知見を踏まえながら、販売、調達在庫、債権債務、会計などを一気通貫で支える仕組みとして展開されています。個別対応を積み上げるのではなく、共通化できる部分を基盤側で受け止める発想は、今後の制度対応力にもつながります。

eFiling対応をその場しのぎで終わらせるのか、それとも証明データを含めた業務基盤の再設計につなげるのか。今回のテーマは、その分かれ目を考える材料になりそうです。

気になった方は、ぜひ下記ページもご覧ください。

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