穂刈智也

Peppol対応、非財務データの整備、eFiling対応など、ここ数回のテーマに共通していたのは、必要な情報を社内に持っているだけでは足りなくなっている、ということでした。
受発注、在庫、物流、請求、証憑、規制対応。こうした情報が取引の流れに沿って結び付いていなければ、現場はそのたびに確認し、補い、つなぎ直さなければなりません。

そこで改めて注目したいのが、企業や業界をまたいだデータ連携です。
ERPもまた、社内の基幹業務を整える仕組みから、社外とのやり取りまで見据えた基盤へと役割を広げる時期に来ています。今回は、デジタル庁が進める企業間データ連携基盤の考え方を手がかりに、これからのERPが何を担うべきかを考えます。

企業間データ連携が進む今、商社・卸売業のERPは何を見直すべきか

デジタル庁は、企業や業界をまたいでデータを安全に連携・活用できる仕組みとして、産業用データ連携基盤の整備を進めています。ここでいう「データスペース」は、合意されたルールの下でデータが自律的に動き、実物経済を支える仕組みとされています(※1)。少し大きな言葉に見えますが、実務に引き寄せれば、受発注、物流、請求、証憑、さらにはCO2排出量のような情報まで、企業の境界を越えてどう扱うか、という話です。

これまでERPは、まず社内業務を整える基盤として発展してきました。その役割はいまも変わりません。ただ、制度対応や企業間連携の要求が増えるなかでは、社内だけが整っていても十分とは言えません。取引先との間で別管理が残り、結局はメールやExcelで補う状態では、全体としての効率は上がりにくいからです。

もともと商社・卸売業は、社外とのやり取りが多い業種です。だからこそ今問われているのは、社内の統合管理だけでなく、その先で外とどうつながるERPにしていくかだと言えそうです。
(※1) https://www.digital.go.jp/policies/industrial-data-integration
 

商社・卸売業のデータは、なぜ社内で統合しているだけでは足りないのか

この点は、日々の実務を思い浮かべると分かりやすいと思います。社内では販売、購買、在庫、会計が一定程度ERPでつながっていても、取引先との間ではメール、Excel、PDF、個別EDIが残っているという状況は珍しくありません。社内にはデータがあるのに、社外とやり取りする段になると、別の運用に戻ってしまうわけです。

デジタル庁の資料でも、受発注や会計の一部は高度化が進んでいても、請求業務などは取引先の対応状況に左右されやすく、全体最適につながりにくい構造が示されています(※2)。
これは商社・卸売業でも同じです。取引先ごとに必要な帳票や証憑が違い、物流や通関、制度対応の情報も別々に動くため、社内で整理しただけでは最後までつながりません。

見落としやすいのは、「データがあること」と「そのデータが使える形で結び付いていること」は別だという点です。
社内で統合しているつもりでも、企業間で使える形に変換できなければ、現場では確認や転記が残り続けます。社内最適では回っていても、社外連携の場面で手作業が増える。いま表面化しているのは、まさにその課題です。

(※2) https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/82a1ea56-128f-4cf6-bbd5-9ef6d4b7bafc/b0e300a6/20260430_policies_budget_BtoB-transactions_01.pdf

これからのERPに求められるのは、「ためる仕組み」ではなく「つながる仕組み」

では、こうした状況の中でERPはどうあるべきでしょうか。
これから求められるのは、社内にデータを蓄積するだけの仕組みではなく、「必要な相手に、必要な形式で、必要なタイミングで受け渡せる仕組み」です。受発注、在庫、物流、請求、証憑、規制対応データが社内に点在しているだけでは、制度対応にもAI活用にも広がりが出ません。

AIを業務に生かす議論も増えていますが、その前提になるのは、元になるデータが分断されていないことです。社内外で情報が途切れていれば、予測や分析の精度は上がりにくくなります。ERP+AIを価値に変えるには、まずERP自体が「つながるデータ」を扱える設計になっているかが重要です。

WTOでは、電子商取引協定(ECA)の発効に向けた動きが進んでおり、越境デジタル取引を支えるルール整備も前に進んでいます。こうした流れを踏まえると、ERP選定の見方も変わってきます。SAP S/4HANAやOracle EBSのような外資系ERPは、グローバル標準の考え方に強みがありますが、日本の商慣習や取引先ごとの細かな連携要件に合わせようとすると、追加設計や個別対応が増えやすい面があります(※3)(※4)(※5)。

導入時の負担だけでなく、その後の制度変更や取引先追加への対応まで考えると、「多機能であること」以上に、「連携を前提に運用を組めること」が大切になってきます。

(※3) https://www.wto.org/english/tratop_e/ecom_e/joint_statement_e.htm
(※4) https://www.oracle.com/jp/applications/ebusiness/
(※5) https://news.sap.com/japan/2026/03/sap-japan-launches-japanese-version-of-s4hana-cloud-public-edition-retail/
 

データスペース時代の商社・卸売業に必要なのは、外とつながることを前提にしたERP戦略

ここまで見てきたように、これから必要なのは、社内業務の効率化だけを目的にしたERPではありません。販売、購買、在庫、会計を押さえながら、その先で取引先、物流、制度対応、証憑管理へと広げやすい基盤を持てるかどうかが重要になります。

双日テックイノベーションのGRANDIT構築サービスは、商社・卸業務の知見を踏まえながら、販売、調達在庫、債権債務、会計などを一気通貫で支える構成を持っています(※6)。こうした基盤の強みは、今ある業務を回すことだけではありません。個別対応を積み上げるのではなく、共通化できる部分をERP側に取り込み、将来の連携拡張にも備えやすい点にあります。

この連載を通じて見えてきたのは、制度ごとの対応を積み上げるだけでは、現場の負担はなかなか軽くならないということです。
Peppol、非財務データ、eFilingと見てきた先にあるのは、社内最適のERPから、外とつながるERPへの発想転換ではないでしょうか。
第60回の締めとして言えば、次の競争力は「何を持っているか」だけでなく、「何を、誰と、どう結び付けるか」で決まっていくのだと思います。

(※6) https://natic.sojitz-ti.com/service/erp/


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