業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第93回「ERPとAIの活用を考える、専門商社・卸売業が取り組むフィジカルAI~大手企業が最近良く口にするフィジカルAIは何が凄いのか?~」をご紹介します。
最近トレンドになっているキーワードに「フィジカルAI」があります。フィジカルAI(Physical AI)とは、AI技術を物理的な現実世界に組み込み、ロボット・センサー・産業システムを利用する考え方です。生成AIやエージェントAIは、PCやスマートフォンに指示をして、その結果やコンテンツを、同じくPCやスマートフォンなどで受け取りますが、フィジカルAIでは、ヒューマノイドロボットや協働ロボット(コボット)、システム、設備や機器などをAIが直接動作させる仕組みです。従来の生成AIがデジタル空間で機能するのに対し、フィジカルAIは工場・倉庫・インフラなどリアルな現場で自律的に意思決定・行動を行うことができます。ここ最近、大手製造業やIT/コンサルティング会社がフィジカルAIを成長戦略の中心にすると言っている背景には、今後最も成長が期待できる市場であり、AI技術の進化とその活用が大きなビジネスチャンスに繋がる期待があるためです。
フィジカルAIについての参考情報は、YouTubeやNHKなどで分かりやすい動画が公開されているので、時間があればご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=uhLDHA9skFk
https://www.web.nhk/tv/an/zero/pl/series-tep-XK5VKV7V98/ep/68NKNYK67X
さて、今回はこのフィジカルAIについて、中堅中小企業向けにフォーカスした内容についてご紹介いたします。

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- (図表1、フィジカルAIとは?フィジカルAI4つの柱)
商社・卸売業はフィジカルAIで『秘伝のタレ』をデジタル化してAIの価値を高める
さて、フィジカルAIですが一見すると製造業やIT/コンサルティング系にフォーカスした技術に見えます。専門商社や卸売業のコアバリューは、「人と人の関係性」「業種固有の商慣習と歴史背景」「商品に付随する見えない情報や価値」など曖昧で数値化、デジタル化されにくいのが特徴と言えます。逆に言えば、この数値化、デジタル化されないコトを強みとして「暗黙知→形式知」へ変換できれば、業種・企業固有のノウハウが組み込まれたAIシステムは他社に対する圧倒的な優位性を獲得することができます。つまり、ノウハウをAI技術で『デジタル化した秘伝のタレ』とできれば、真似されない強みとなります。フィジカルAIでは、ロボットや設備/機器をAIで直接コントロールする技術ですから、業種業態に関係なくノウハウの『秘伝のタレ』は有効となり、デジタル化が難しい商社・卸売業こそ価値が高くなると言えます。
・専門商社・卸売業の『デジタル化された秘伝のタレ』(参考)

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- (図表2、商社・卸売業がフィジカルAIで得られる6つの効果)

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- (図表3、デメリット・課題・リスク:導入前に必ず把握すべき7点)
つまり、フィジカルAIに『デジタル化した秘伝のタレ』を組み込むと何が起きるのか?答えは「汎用AIが業種特化の専用AIに変身する」ことだ。そしてこれが、中堅専門商社最大の競争優位になる。取扱商品の業種ごとに、3つの価値を引き出す効果があります。
商社・卸売業がフィジカルAI導入成功に必要な3つの条件とは
前述した通り、製造業よりも商社・卸売業のノウハウ『秘伝のタレ』は、数値化やデジタル化の難易度が製造業よりも高いと言えます。また、IT技術者やAIに詳しい社員が少ないためITベンダーやコンサルティング会社に騙されやすく、上手い言葉に乗せられてシステムやサービスを比較もせずに購入するケースが後を絶ちません。
・よくある失敗パターン

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- (図表4、「エージェントAI」から「フィジカルAI」の時代へ)
① 経営者が「タレの番人」になる
秘伝のタレのデジタル化は、誰かに任せっきりにできないテーマです。誰のどのノウハウに本当に価値があるのかを判断できるのは、事業を熟知した経営者や事業責任者だけです。「DX担当に任せた」では必ず失敗してしまいます。経営者自身がタレの発掘・整理に直接関わることが、成功の最大の条件です。
② 小さな勝利を素早く可視化する
フィジカルAIとナレッジのデジタル化を全社展開で加速させるためには、「やってよかった」というユーザー体験を早期に作ることが不可欠です。1つの倉庫作業でも、1つの顧客向け提案でも良いので、具体的な効果が数字で見えたときに、これを取り上げて丁寧に評価します。(ほめて伸ばす。加点評価型)これで、社内の空気は劇的に変わっていきます。
③ 外部パートナーを「触媒」として使う
NVIDIAの技術やロボットメーカーとの交渉、AIモデルの構築には専門知識が必要となりますが、しかしその専門知識を全て内製化しようとする必要はありません。外部パートナーの力を借りながら、「自社独自のノウハウ部分」だけは自社で管理する——この役割分担が、持続的な競争優位につながります。特に、現場から入手する「一次データ」は門外不出のデータとして自らが保管・管理すべきです。処理したアウトプット(処理済みデータ)や平均値などは外部公開しても構いませんが、生データの一次データだけは内部だけで保持します。
商社・卸売業のフィジカルAI成功の秘訣
- 「秘伝のタレ」(業種固有の暗黙知)は、デジタル化されなければ企業の財産にならない
- デジタル化は「可視化→構造化→知能化」の3段階で段階的に進める
- フィジカルAIは早期に立ち上げるほど、データ蓄積のアドバンテージが大きくなる
- 「タレの整備」と「フィジカルAIの立ち上げ」は並行して進める。動かしながら磨く
- 競合が簡単に真似できない業種特化型AIの構築が、最大の競争優位になる

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- (図表4、業種別 推奨フィジカルAI活用領域マップ)
さて今回は、商社・卸売業のフィジカルAIを取り上げてみました。その背景には、経営者やDX担当者がフィジカルAIの波に乗り遅れることを恐れるあまり「とにかくロボットを入れてフィジカルAIだ!」という安易な判断が増えている現状もあります。しかし、AIもロボットも所詮は道具に過ぎず、これをどのように使いこなすかが重要です。「業種固有のノウハウ、長年の顧客との経験や信頼関係、現場だけが知る生きたデータなど」、このなかに商社・卸売業がフィジカルAI時代を生き残る鍵があるのは間違いないでしょう。そもそも『秘伝のタレ』は、時間をかけて作るものです。だからこそ今すぐ始めることに意味があります。ITベンダーやコンサルティング会社から手に入れてすぐ結果が出るものではありません。(部分的な支援は有効)デジタル化した秘伝のタレを作り始めるところから、長年の時間と試行錯誤の経験を蓄積して、他社が追従できない価値あるナレッジへと成長していくのだと思います。
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