業界トップランナー鍋野敬一郎氏コラム第99回「中堅規模の商社・卸売業は「物売り」から「稼ぐ仕組み売り」へ~現状調査からデータ項目を揃えて、統合データ基盤を作ってAIで解析する手法~」をご紹介します。
11月からいよいよ米国の中間選挙が始まります。トランプ大統領の支持率は順調に下がり続けて、大統領就任後過去最低の30%を割り込む状況です。民主党は、オバマ元大統領がトランプ政権の批判を強めていますが、中間選挙でトランプ大統領率いる共和党が負けても「めでたしめでたし」とはならないことは確実だと予測されています。負けたという選挙結果を「私は認めない!」と主張するのは確実です。また、民主党が勝ってもあと2年間の任期があるトランプ大統領がおとなしくしているとは全く考えられません。中間選挙後に、対イラン戦争の大規模攻撃が予定されているとか、支持率を高めるために石油価格を下げる狙いでロシアの経済制裁を緩和したり、中国と取引したりする可能性が高いとまで言われているからです。いずれにしても、勝っても負けても世界にとっても日本にとっても良い展開は期待できそうにありません。もちろんトランプ大統領が日米安保条約に従って、日本を守ってくれることなどなく、台湾有事の際には最前線に投入されるかもしれません。
日本の製造業は、50年以上の製造ノウハウがあるからフィジカルAIで強みを生かせるに違いない!などと、マスメディアや昭和世代の方々は口にされていますが、デジタル技術でも、AI技術でも欧米中国に敗戦した現状を見ると嘘っぽい。それ以前に、AIを正しく使いこなすためには、AIが解析する「品質、頻度と鮮度、ボリューム」が揃ったデータを適宜取得し続ける必要があります。さらに、そのデータの相関性やメタデータを整える必要があります。(データの正規化)今回は、AIを正しく使うためのデータを整える方法について、できるだけ分かりやすく説明します。
現状分析AS-ISのデータ項目から始めて、取得したデータ項目からカイゼンを廻す
まず現状分析からはじめます。理由は3つで、第1にどんなデータがあるのかがわからないと、データの相関性がわかりません。受注履歴は基幹システムに、見積の経緯は担当者と個客のメールのやりとりに、設備の稼働や故障はベテラン保全担当の頭の中にあります。データの所在も、粒度も、更新頻度もバラバラです。そもそも比べることが出来ません。これを整理するのです。バラバラのデータでデータ基盤を構築しても、相関性や整理されていないデータは使えません。第2に目標は現状の数字から決まります。見積の経緯や、在庫状況が分からないと、現状のカイゼン目標は立てることができません。第3に相関分析するには、データを揃える前提条件が必要です。つまり、データ項目の定義と時間軸が揃っていないとAIが分析する軸がブレます。(ハルシネーションやエラーの原因となります)
このデータ項目の整理ですが、AS-IS分析は8つの区分で項目を並べるところからはじめます。多様な項目を5件程度ずつあげるところから始めます。サンプルとして、中堅機械商社のサンプル例をあげます。実際には、それぞれ自社の現状に合わせて入れ替えてください。
① ITデータ、②OTデータ、IoTデータ、ドキュメント、⑤画像・動画、⑥音声・メール・チャットなど、⑦外部データ、⑧マスタ・ナレッジ(条件や体系など)
次に、8つの区分の主なデータ項目をどのように連携すれば良いのか説明します。
洗い出した項目には、名称、定義、出所、更新頻度、粒度、欠損の割合、管理者といったメタデータを付けます。これを使って、どの項目同士を比べられるかを決めます。同じ顧客コード、同じ品番、同じ日付で結べるかどうかが分析の可否を分けます。(軸1)もうひとつの足掛かりが時系列です。データを日付と時刻の軸で並べれば、原因が結果に先行する関係が見えてきます。(軸2)これは例えば、顧客設備の稼働が増えてから数週間後に消耗品の出庫が増えるといった、時間差を伴う関係です。集めたデータには、生成AIと各種の統計解析手法を使って解析します。生成AIは、相関の候補を挙げて結果を平易な言葉で要約する役を担わせます。統計手法は、その関係が偶然ではないかを確かめる役割です。代表的なKPIと、自社の強みと弱みを、BIツールのグラフや図表で表示します。因果関係の見極めは、現場を知る人の経験とナレッジで行うことで熟練者の知恵を集めます。

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- (図表1、中堅機械商社:8区分の主なデータ項目、AS-ISの洗い出しの例)
現状分析AS-ISから目標を定めて、具体的なカイゼンと追加データを加えていく
現状分析AS-ISで集めた簡易統合データを代表的なKPI・独自KPIからカイゼンと追加データを加えていきます。代表的なKPIを計算すると、現状値が見えます。これをスタート地点として、目指す目標を設定します。そして、その目標に近づくためのカイゼンの取り組みと、そのために追加で必要なデータ項目を追加していきます。足りないデータが分かった時点で初めて、センサーの設置や記録の仕組みづくりに進めます。目標は高すぎても低すぎても現場は動かないので無理な目標を立てません。現状値と同業の水準、そして主要顧客の期待を並べ、半年から一年で届く距離に置くのがよいでしょう。(CAN-BE、CAN-DOという考え方)カイゼンの取り組みも、一度に広げると発散して効果が出にくいので、最も効果が大きく、最も着手しやすいKPIを一つ選びます。現場の担当者と期限を決めて小さく着実に始めると良いと思います。その結果を、都度関係者全員がBIツールなどで確かめて、次のKPIへ進めて行きます。小さな成功を積み重ねることが、現場の協力を得る近道になります。

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- (図表2、代表的KPIからカイゼンと追加データ項目の参考例)
この取り組みによって、期待する効果は3段階で現れてきます。
まず、見えなかったものが見えるようになり、会議が感覚ではなく具体的な数字や値で進めることができます。次に、補充や保守の提案の精度が上がり、顧客の手間と停止時間が減っていきます。そして、改善の結果として業務プロセスそのものが見直され、効果が積み上がっていくことになります。顧客にとっての効果が大きく、商社が自社のデータを磨くほど、顧客の消耗品の使い方や設備の止まり方が見えてきます。これが見えれば、発注の手間を引き受ける提案も、止まる前の保守の提案も、根拠をもって示すことができるようになります。顧客の売上と利益に貢献する提案は、こうした積み重ねから生まれる。実際に、トラスコ中山は、顧客の副資材の需要データから欠品を予測して補充発注型で常に顧客の傍に在庫を置くMROストッカーという仕組みを提案しています。既に1000社以上が導入していることから、このやり方が売上収益と顧客満足度向上の両方に効果があることが裏付けられています。この取り組みは、一度の分析で終わらせないことが肝心です。業務を行い、データを取り、改善し、また測る。この循環を続けるたびに、データ項目は磨かれ、モデルは育ちます。AIと統計処理を使った商社・卸売業のAIデータ活用として有効です。
今回は、機械商社の統合データ基盤の構築方法とその具体的な効果についてご紹介しました。ポイントは、最初に選ぶ8区分の5項目程度のデータを選ぶところに、業界知識やお客様理解、市場トレンドなどが必要となります。つまり、現場や業界を理解していないコンサルやシステム売り(人月工数売り)のITベンダに騙されると一向に効果が出ないということになります。顧客理解とデータ項目・KPI選択によって、同じAIを使っていてもデータがバラバラで、AIが正しく機能せず効果が大きく変わることになるわけです。前回、「物売り」から「稼ぐ仕組み売り」へビジネスモデルを変えていくことになると言いましたが、その理由はここにあります。
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