2026年5月18日から23日にかけて、タイ・バンコクのIMPACT Forumで開催されたHPEのグローバル技術イベント「HPE Tech Jam Bangkok 2026」に参加してきました。本イベントは、HPEのプリセールス社員や主要パートナーを対象とした技術コミュニティイベントで、今回はAPAC・インド・日本・中国地域から過去最大規模となる1,600名以上(前年比27%増)が参加し、Breakout、Hands-On、Deep Dive、Workshop、Keynoteなど300以上のセッションが開催されました。日本からもパートナー30社より62名が参加する盛況ぶりで、私自身も弊社のネットワークインテグレーション事業本部のメンバー3名とともに現地入りしました。
本記事では、参加の目的や基調講演で示されたHPEの最新戦略、そして現地で得られた気づきについてレポートします。

Index

参加の目的

今回参加した一番の目的は、HPEの最新戦略と製品・サービスの方向性を、現地で直接つかむことでした。特に注目していたのは、ハイブリッドクラウドとAI基盤の領域です。日々の設計や提案の現場では、カタログやWeb上の情報だけでは判断しきれない場面が少なくありません。開発の当事者が何を考え、どこへ向かおうとしているのかを直接聞くことで、その解像度を上げたいと考えていました。
もう一つの目的は、国内外の技術者やパートナーとの交流です。同じ製品を扱っていても、地域や案件によって直面する課題や工夫は異なります。そうした実践的なノウハウや導入時の勘所を持ち帰ることも、大きな狙いの一つでした。

会場となったIMPACT Forum。世界各地から集まった技術者で賑わっていた
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会場となったIMPACT Forum。世界各地から集まった技術者で賑わっていた

会場の様子:技術者が集うコミュニティイベント

Tech Jamの特徴は、セッションの形式が非常に多彩なことです。製品の方向性を聞くBreakoutやKeynoteだけでなく、実際に手を動かすHands-On、特定領域を深掘りするDeep Diveまで、300を超えるセッションが会期中びっしりと並びます。会場内には認定試験を受けられるTesting Centerも常設されており、「聞いて終わり」ではなく、その場で試して確かめられる設計になっている点が印象的でした。
参加者の顔ぶれもグローバルで、休憩時間には各国のエンジニアが製品の話で盛り上がっている光景があちこちで見られました。同じ課題に別のアプローチで取り組んでいる人の話を聞けるのは、現地に足を運んだからこその収穫だったと思います。

日本から参加したパートナー各社のメンバーとの集合写真(人物にはぼかし加工を施しています)
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日本から参加したパートナー各社のメンバーとの集合写真(人物にはぼかし加工を施しています)

基調講演:テーマは「STRONGER」

本イベントの基調講演テーマは「STRONGER」。HPEは顧客が直面する3つのメガトレンド——「Great VM Reset(仮想化基盤の再編)」「AI Gold Rush(AI導入競争)」「Security & Resiliency Imperative(セキュリティ・回復力の必須化)」——に対し、Networking・Hybrid Cloud・AIという3本柱で包括的なソリューションを提供していく方針を明確に打ち出しました。
特に注目すべき発表は次の3点です。

 

  • HPE CloudOps Software Suite(Morpheus + OpsRamp + Zerto)によるハイブリッドクラウド運用の統合
  • AI Factory構想の具体化(HPE Private Cloud AI 等)
  • Juniper統合後の「自律型ネットワーク(Self-Driving Network)」構想

オープニング&市場概況

HPEでWW Presales & Technical Communityを統括するRita Martin氏は、昨年比27%増の約1,600名が参加した規模の拡大を紹介した上で、顧客が直面する市場環境について語りました。イノベーションのスピードが加速する一方、顧客のIT環境は数十年にわたる複雑なレイヤーで構成され管理が困難になっており、地政学的変化、データ主権規制、レガシーIT、セキュリティ懸念、仮想化コストの上昇、そしてAI需要が顧客の主要な課題になっているとの指摘がありました。とりわけAIの台頭が目下最大の混乱を生んでおり、一言でAIといっても学習・推論・エージェント・フィジカルといった多様な変化が同時進行しているといいます。
HPEの顧客が直面している3大トレンドとして、以下が挙げられました。

  • Great VM Reset —— AIのためのデータ統合、コスト削減、プライベートクラウド化 等
  • AI Gold Rush —— AIのためのデータ準備、AI価値の最大化、エッジ推論のアップグレード 等
  • セキュリティ・回復力 —— データ保護とリカバリ、ネットワークセキュリティの集約、ソブリン化 等

 

これらに対し、HPEが提供する必要不可欠な構成要素として次の3つが示されています。

  • ネットワーク —— よりセキュアで効果的なデータへのアクセスを実現する
  • ハイブリッドクラウド —— ワークロードを最適な場所で柔軟に実行させる
  • AI —— データの持つ価値を最大限引き出し、成果創出を加速させる
     

ネットワーキング:自律型ネットワークへの布石

HPE NetworkingのWorldwide Salesを率いるAlain Carpentier氏は、AIの進化速度にネットワーク管理が追いつけないという課題を提起し、自己構成・自動最適化・自己修復が可能な「自律型ネットワーク(Autonomous Network)」の必要性を強調しました。HPE Aruba と Juniper の統合により、キャンパスからデータセンター、セキュリティまでを包括するポートフォリオが実現しつつあり、両プラットフォームはマイクロサービスベースで構築されているため、一方のイノベーションを他方に転用しながらイノベーション速度を加速させているとのことです。


データセンターネットワーキングの領域では、「今後5年以内に全データセンターの改変が必要」との見解が示され、Apstra と Mist プラットフォームによる自律型データセンター管理が紹介されました。AIワークロード向けには、HPEの液体冷却ノウハウとJuniperの技術を統合した液体冷却型DCスイッチ「QFX 5250」(64ポート×1.6Tbps)も披露されています。

Juniperの買収については160億ドルを投じ、ネットワーキング企業への変革を宣言。Gartner Magic Quadrantでもリーダーポジションを獲得しています。セキュリティ面では、SD-WAN・次世代ファイアウォール(Sシリーズ)・ClearPass(ネットワークアクセス制御)を統合したゼロトラストアーキテクチャを採用しています。
 

ハイブリッドクラウド:GreenLakeは「統合」のフェーズへ

CloudOps and Private Cloud LeadのBrad Maestro Parks氏によると、GreenLakeプラットフォームは提供開始から約10年を迎え、2026年のキーワードは「統合」であり、MorpheusをGreenLakeに統合してフリート管理や共有サービスを展開するほか、生成AIを活用した「GreenLake Intelligence」の強化も進められています。ソフトウェアスタックの役割分担は以下の通りです。
 

製品 機能
Morpheus ハイブリッドクラウド運用(プロビジョニング、ライフサイクル管理、コスト最適化)
OpsRamp フルスタック可観測性(3,000超の統合、MTTR短縮)
Zerto データ復旧・データ移動


とりわけ「Morpheus VM Essentials」は、KVMベースのランタイムとして急速に採用が進んでいるとのこと。ソケットベースのライセンスモデルによりコストを最大90%削減できる点や、Veeam/Zerto統合、VMwareからの移行ツールが用意されている点は、VMware環境の代替を検討している企業への提案材料として注目に値します。プライベートクラウドポートフォリオもPCシリーズ(1000/3000/7000)としてブランドリニューアルされ、AI向けスタックも提供されるなど、Gartnerの統合プラットフォームMagic Quadrantでも業界トップの評価を得ています。

AI:NVIDIAとの協業とAI Factory構想

NVIDIAでGlobal AI FactoriesのVPを務めるKaushik Shirhatti氏は、両社が1週間に192通ものメールをやり取りするほど密接に連携している実態を紹介しつつ、プライベートクラウドAI、ネットワーク、AIファクトリーのスケーリングなど幅広い領域で協業していると語りました。AIを「電力 → チップ → インフラ → モデル → アプリケーション」という5層構造で捉える視点も提示されています。

また、従来の「質問して回答を得る」チャット型生成AIから、自律的に情報収集・分析・行動する「エージェンティックAI」への転換が進んでおり、エージェントは眠ることなく複数のLLMやMCPデータサーバーと連携して動作するため、推論需要が爆発的に増加しているとのこと。これがインフラに与える影響は甚大で、企業にとっては一世一代の機会であると強調されました。顧客への提案アプローチとしては、「GPUやストレージ、ネットワークの前に、まずワークロードから考える」ことの重要性が語られ、ユースケースを起点に据えれば適切なソリューションは自ずと定まるという考え方が示されています。
HPEでAI Factory Solutionsを率いるBharath Ramesh氏からは、ハードウェア・ソフトウェア・サービスを一体提供する「フルスタック」戦略によりリスクを軽減し、80%の標準化と20%のカスタマイズによって迅速な本番導入を実現するモデルが紹介されました。複数拠点をネットワークで接続し、分散学習・分散推論を1つの連続クラスタとして運用できる「AIグリッド」構想により、データセンターの容量制約を緩和できるといいます。ハード・ソフト両面のマルチテナンシーへの対応や、国家基準(CMMC、ISO等)への適合を重視する「ソブリンAI」への注力も語られ、データ主権への懸念がAI導入の最大の障壁であるとの認識のもと、そのリスク軽減にHPEが力を入れている姿勢がうかがえました。成功事例としては、HPC機関(大学・研究所・スパコンセンター)、サービスプロバイダー、大規模企業の3分野が紹介されています。

基調講演は総じて、「Juniper統合後のネットワーク戦略」「GreenLake/Morpheusによるハイブリッドクラウド統合」「NVIDIA協業によるAIファクトリー」の3本柱を中心に、HPEが「自律型ネットワーク」「エージェンティックAI」「ソブリンAI」という次世代テーマでリーダーシップを発揮していく姿勢を強く打ち出す内容でした。
 

会場に展示されていたAIワークロード向けサーバー機材。GPUスロットや高密度構成が印象的だった
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会場に展示されていたAIワークロード向けサーバー機材。GPUスロットや高密度構成が印象的だった

参加の成果

現地で最も収穫だったのは、AI基盤に対する語られ方の変化を体感できたことです。2025年は「まず動くことを示す」フェーズでしたが、2026年は「スケールできることを示す」フェーズへと、明確に重心が移っていました。加えて、クラウド・AI・ネットワーキングがそれぞれ独立した技術としてではなく、一体となって価値を生み出すものとして一貫して語られていた点も印象的でした。個々の製品の良し悪しではなく、運用や拡張性まで含めた全体像で捉える——そうした視点の必要性を、あらためて突きつけられた思いです。

また、会場内にはTesting Centerが常設されており、その場でHPE認定試験を受験して「HPE ATP - Hybrid Cloud」を取得することができました。学んだ内容を資格という形で確かめられるのは、こうしたイベントならではの環境だと感じます。
 

考察

今回初めてHPE Tech Jam Bangkokに参加して、まず圧倒されたのは、APAC地域から集まった1,600名を超えるエンジニアの熱量でした。各ブレイクアウトセッションでは、開発者やエグゼクティブに対してフランクな質疑が次々と飛び交い、その場で技術的な疑問を解消していく——そんなエンジニアコミュニティの文化を肌で感じることができました。HPEがこのイベントに注ぐリソースと「本気度」からは、単なる製品発表の場を超えて技術コミュニティそのものを育てようとする姿勢が伝わってきます。

内容面で特に印象に残ったのは、HPEが「ハードウェアベンダー」から「ハードウェア+ソフトウェア+クラウドオペレーションカンパニー」へと着実に変貌を遂げている点です。Morpheus / OpsRamp / Zertoを統合したCloudOps Software Suiteは、マルチクラウド時代の運用基盤として説得力があり、VMware環境の見直しを検討されている企業にとって有力な選択肢になり得ると感じました。
もっとも、昨年Morpheus VM Essentialsを実際に検証した時点では、基本的な機能こそ問題なく動作するものの、完成度や品質の面で気になる点があり、機能面でも物足りなさが残るというのが正直な評価でした。ただし、これはあくまで当時のスナップショットであり、その後のアップデートで改善は着実に進んでいて、今回のTech Jamで語られていた開発の勢いを踏まえると、今後も短いサイクルで完成度が高まっていくことが期待できそうです。
この経験から学んだのは、製品の評価は一度下したら終わりではない、ということです。カタログの文言だけで判断しないのはもちろんですが、一度「まだ早い」と結論づけた製品も、時間を置いてもう一度自分の手で触ってみる。そうした継続的な検証こそが、お客様に自信を持って提案するための土台になるのだと感じています。
AI領域についても、検証から実運用・拡張フェーズへの移行が進むなかで、今後問われるのは性能だけではないはずです。継続的に運用できるか、標準化できるか、ガバナンスを効かせられるか、そして既存環境とどうつなぐか。こうした地味ではあるものの本質的な部分が、これまで以上に重要になっていくと考えています。要件定義から設計、運用までを一貫して支えられることこそ、これからのシステムインテグレーターに求められる価値なのだろうと思います。

製品知識をアップデートするだけでは足りません。それをどう伝え、どう実際の価値に変えていくか。今回得た学びを自分の中だけで終わらせず、社内はもちろん、この記事を読んでくださった方にも少しでも役立つ形で還元していければ幸いです。
 

会場に設置されたHPE TECH JAM BANGKOK 2026のロゴサインにて
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会場に設置されたHPE TECH JAM BANGKOK 2026のロゴサインにて

クラウドソリューション事業本部 第2技術部1課 伊藤 健一

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