現代はVUCA(ブーカ)と言われ、変化が激しく不確実な時代です。過去の成功体験や、経営者の「勘・経験・度胸」だけでは、もはやこの荒波を乗り越えることはできません。
今、企業に求められているのは「今、何が起こっているのか」をリアルタイムかつ定量的に分析し、迅速に意思決定を行う「データドリブン経営」です。しかし、多くの企業がその手前で足踏みをしています。なぜ簡単に実現できないのでしょうか。最大の原因は、データが部門ごとに分断的に管理されている「サイロ化」です。この課題を解決するには、全社的なデータ分析基盤の構築が不可欠です。

Index

データがサイロ化する3つの原因とは

データがサイロ化する背景には、主に3つの原因が潜んでいます。

原因1:部門・組織ごとに個別最適化する「組織の壁」

原因2:バラバラなデータ形式

原因3:大量の「表記揺れ」

原因1:部門・組織ごとに個別最適化する「組織の壁」

組織の「縦割り構造」は、データがサイロ化する根本原因です。情報処理推進機構(IPA)がまとめた『DX動向2025』によると、「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化」に成果が出ていると回答した企業は、48.5%にとどまります。着実に成果は出ているものの、アメリカ(68%)やドイツ(75.6%)と比較すると、その遅れは明らかです。
近年、特定の業務に特化したクラウドサービス(SaaS)が普及しました。低価格ですぐに導入できる手軽さがあります。そのメリットから部門独自で導入することが増えた結果、全社的なデータ分析基盤が整わず、データのサイロ化が加速しています。
 

原因2:バラバラなデータ形式

業務に利用するExcelファイル、画像、音声といった膨大なデータは、データの形式によってバラバラに保存されています。こうした非構造化データも含め、いかにして一元管理するのか。これがデータ分析基盤における喫緊の課題です。

原因3:大量の「表記揺れ」

例えば「得意先」と「顧客」のように、同じ意味でも部署によって項目名が異なると、データはつながりません。データを統合するには、このような差異を洗い出し、標準化する必要があります。この地道な作業を後回しにすると、データ分析基盤におけるサイロ化は解消できないのです。

サイロ化を解決するデータ分析基盤「レイクハウス」とは

ここまで見てきたように、サイロ化の原因は、組織の要因、データ形式の要因、データガバナンスの要因と、多方面にわたっています。こうした原因を解消するデータ分析基盤として注目されているのが「レイクハウス」です。
従来の企業が活用していたデータ分析基盤は、「分析用(データウェアハウス)」と「開発用」に分かれていました。
 

データウェアハウス(DWH)

売上数字などの「構造化データ」を扱い、経営レポート(BI)に利用します。

データレイク

画像やログなどの「非構造化データ」を大量に溜め込み、データサイエンティストがAI学習に利用します。

レイクハウスはこの2つを統合して一元管理できます。またAIが学習しやすい環境を整備することができ、代表的なものとして統合プラットフォームのDatabricksがあげられます。レイクハウスがサイロ化を解消するとされているのは、以下の理由があります。

「データの抱え込み」を防ぐ

多くの組織でデータが共有されない理由は、「勝手に使われてトラブルになるのが怖い」「セキュリティ管理が面倒」という心理的・運用の不安です。レイクハウスには強力なアクセス制御機能(誰がどの項目まで見ていいか)が備わっています。データの所有権を明確にしつつ、安全な共有ルールをシステム的に強制できるため、各部署が安心してデータを開放できるようになります。

あらゆるデータ形式を1箇所で管理できる

レイクハウスは、安価で広大なデータレイクのストレージを基盤とするため、データの形式を問わずすべてを1箇所に集約できます。その上で、データウェアハウスのような整理・検索機能を持たせるため、データが迷子になりません。

表記揺れを効率的に解消できる

レイクハウスは「カタログ機能」や「セマンティックレイヤー(論理統合)」など、表記揺れやセマンティック(意味)の不一致を解消する機能を備えています。また近年では、AIが類似性を検知することで膨大な項目の統合が可能になる機能が進化しています。

サイロ化を解決するデータ統合の進め方

多くの企業がAI活用を目指しながらも、部門ごとにデータが分断されたサイロ化が壁となり成果を出せずにいます。この課題を解消し、強固なデータ分析基盤を構築するための具体的な進め方を6つのプロセスに分け解説しましょう。

1.データ統合の目的・ゴールを定義

データ統合の最初の一歩は、ツール導入ではなくビジネス視点での目的を明確にすることです。
 「なぜ統合が必要なのか」「どの業務課題を解決したいのか」を定義し、共通KPIやマスタ、データモデルの方向性について全社的な合意を形成します。
この段階で、将来的なAI活用のロードマップと優先すべきユースケースを決定します。

2.現状の把握

どこにどのようなサイロが存在しているのか現状を可視化します。
具体的には、各部門・システムにおけるデータの構造や依存関係、利用目的を棚卸しし、「データマップ」として整理しておきましょう。
また、既存のDBが老朽化やEOSL(サポート終了)を迎えるタイミングであれば、それを「価値ある刷新」のための投資タイミングとして活用する戦略も有効です。

3.データ基盤の再設計

将来の拡張性を見据え、技術的制約が少ないプラットフォームを採用します。

具体的には、以下の要件を満たす基盤を選定することが重要です。

・オープンフォーマット対応

仕様が公開され自由に利用できる形式。将来的にツールの切り替えや複数のサービスからのアクセスが容易になる。

・ストレージとコンピュートの分離

データの保存場所(ストレージ)とデータを処理する計算リソース(コンピュート)を独立して管理することで、コスト最適化とスケール化がしやすい。

・ネイティブなガバナンス機能

データカタログ、アクセス制御、監査ログといった機能が標準装備されていると、外部ツールを後付けすることなくデータの透明性確保や管理の自動化が容易。

 

代表的なソリューションとして、大規模データ処理やAI分析に強い「Databricks」や、Power BIとの親和性が高い「Microsoft Fabric」などが挙げられます。

 

4.スモールスタートで効果検証(PoC)

いきなり全社統合を目指すのではなく、まずは需要予測や在庫最適化など、優先度の高いユースケースで実証(PoC)を行います。
統合によって得られる効果を定量的に示し、ROI(投資対効果)を可視化することで、経営層からの信頼獲得と継続的な投資のモメンタムを確保できます。
 

5.ガバナンスと運用ルールの標準化

データ統合基盤の効果を持続させるため、運用のしくみ化を行います。
データオーナーやデータスチュワードといった役割と責任を定義し、データ定義・命名規則・品質基準を統一します。
ルール遵守を属人化させず、ツールやプロセスによって自動的に担保されるしくみを構築することが成功のカギとなります。

6.全社展開と組織文化への定着

最後に、技術と運用を組織文化として定着させます。
教育プログラムの実施や成功事例の共有を通じて、「データを共有し、価値を生む」というマインドセットを醸成します。
CIOやCDOなどのエグゼクティブ・スポンサーの関与のもと、改善サイクルを回し続けることで、データ基盤を企業の持続的な成長エンジンへと進化させます。

 

なお、上記の内容はホワイトペーパーでも解説しています。データ統合を円滑に進めるためにも、ぜひホワイトペーパーをご参照ください。

データレイクハウスを導入する上での注意点

データレイクの「柔軟性」とデータウェアハウスの「信頼性」を両立させるデータレイクハウスは、データのサイロ化を解消する切り札です。非常に強力ですが、注意点もあります。ここでは注意したい主なポイントを解説します。

「データスワンプ(データの沼)」化の防止

あらゆるデータを蓄積できるのがデータレイクハウスのメリットですが、管理を怠ると品質の低いデータのたまり場になりかねません。Databricksの「Unity Catalog」のようなカタログ機能を活用し、データの所在と中身を可視化する必要があります。

コスト管理が必要

クラウドネイティブなプラットフォームは「使った分だけ課金」されるため、予期せぬコスト増を招くことがあります。コンピュート(計算資源)の監視や大規模なクエリの制限が必要です。

セキュリティと権限の設定

すべてのデータが1箇所に集まるため、セキュリティリスクが高まります。例えば「特定の個人情報は参照不可」「自分の担当分だけ参照可能」といった制御が可能か、設計段階で検証する必要があります。

Databricks活用で、「過去の分析」から「未来予測」へ

「Databricks」をデータ分析基盤として活用し、データ統合に成功した東洋製罐グループホールディングス株式会社の事例をご紹介しましょう。
データを統合して横断的な分析が可能になっただけでなく、AIエージェントに学習させることでさまざまな業務の工数削減にも成功しています。

問題:

  • 基幹システムは整備されているが、蓄積されたデータを業務や経営判断に生かしきれていない
  • 従来のBIツールではデータのリアルタイム性や多角的な分析に限界があった
  • ヘルプデスクやシステム管理を担う人的リソースが不足していた

解決:

  • Databricksを導入し、グループ全体のデータを統合するデータ分析基盤を構築
  • 過去の分析から未来への予測にシフトするデータ活用手法を導入
  • 業務要件に即した最適なAIエージェントを試験導入

成果:

  • 材料費、人件費、電気代、保管料など変動する製品原価のリアルタイム可視化を実現
  • グループ全体のデータを統合することで横断的な分析が可能に
  • AIエージェントにより、ヘルプデスク対応や設計書レビューの工数を30%~40%削減

この事例でポイントとなるのが、データ分析基盤構築をゴールとせず、その先のAIエージェント活用につなげている点です。蓄積された膨大なデータを人が手作業で分析するのは限界があります。データ分析基盤構築を整備すれば、AIが社内のデータを学習し、今までにない分析が可能になります。AIを取り入れることで、データの価値を高めた好事例と言えるでしょう。

FAQ:データのサイロ化でよくある質問

Q:なぜ「データのサイロ化」はこれほど問題視されているのですか。

A:企業の「意思決定のスピード」と「AI活用の精度」を著しく低下させるためです。データが孤立していると、現状を把握するために各部署からデータを集めて加工する作業(手作業のExcel集計など)に膨大な時間がかかります。また、断片的なデータしか参照できないため、誤った判断を下したり、AIが不正確な回答(ハルシネーション)を生成したりする原因となります。

Q:各部門が「データを共有したがらない」のですが、どう対応すべきですか。

A:「データ共有による現場側のメリット」を提示することが重要です。 単に「管理のため」と言っても現場は動きません。「他部署のデータが見えることで、自分の業務がこれだけ楽になる(例:入力作業が減る、顧客背景がすぐわかる)」という成功体験をスモールステップで作る必要があります。あわせて、閲覧権限の管理を徹底し、セキュリティ上の不安を払拭することも不可欠です。

Q:データの整理を始めたいのですが、どこから手をつけるべきですか。

A:「ビジネスへの影響が最も大きい課題」から逆算してください。全社データを一度に整理するのは不可能です。「営業の成約率を上げたい」「在庫ロスを減らしたい」といった具体的な目標を定め、それに必要なデータ(顧客データ、在庫データなど)に絞ってスモールスタートするのが成功の近道です。

Q:レイクハウスは性能面でデータウェアハウスに劣りますか。

A:レイクハウスは、データレイクの柔軟性とデータウェアハウスの高速分析性能を両立することを目的として設計されたアーキテクチャです。
そのため、BI分析や集計処理など多くの用途において、データウェアハウスと同等レベルのパフォーマンスを発揮できるよう設計されています。

Q:DatabricksとMicrosoft Fabricとの違いは何ですか。

A:両者はどちらもレイクハウスの考え方を取り入れた統合型データ分析プラットフォームですが、設計思想と運用スタイルに違いがあります。

 

【Microsoft Fabric】
Power BI をはじめとする Microsoft 製品との親和性が高い SaaS 型サービスです。そのため、すでに Microsoft 環境を利用している企業であれば、比較的スムーズに導入できます。インフラ管理の負担が少なく、短期間でデータ分析基盤を構築しやすい点もメリットです。一方で、SaaS として各機能が統合されているため、構成やリソースの細かなチューニングに関しては自由度が低く、調整の幅が限られる場合があります。

【Databricks】
一方、Databricks は PaaS 型のプラットフォームであり、コンピュートやストレージ、ネットワーク構成などを柔軟に設計できるのが特長です。そのため、ワークロードに応じたコスト最適化を行いやすいという利点があります。ただし、インフラ構成やリソース管理を自社で設計・運用する必要があるため、Microsoft Fabric と比べると管理項目が多くなる傾向があります。
※Databricksは基本的にPaaS型のサービスですが、条件によってはSaaS形式で利用できる提供形態も登場しています。

Q:DatabricksとSnowflakeとの違いは何ですか。

A:現時点での違いは、両者の強みです。もともとデータウェアハウスだったSnowflakeでは、SQLを使ってAIやデータレイクを操作できるため、運用しやすい点が強みです。それに対して、Databricksは、エンジニアが大規模処理やAIモデル構築をできるため拡張性が高いのが強みです。

まとめ:データ統合はAIをビジネスの武器に変えるための第一歩

それでは、ここまでの今回の記事の内容を振り返りましょう。

  • 予測困難な時代を迎え、データドリブン経営の重要性が高まっているが、データのサイロ化がそれを阻んでいる
  • サイロ化の主な原因は「部門・組織ごとに個別最適化する”組織の壁”」「システムの乱立とバラバラなデータ形式」「データガバナンスとリテラシーの不足」である
  • データ活用を進めるには、まず基幹業務データを統合するERPの整備が重要な第一歩となる
  • 次に、ERPを含む複数システムのデータを統合するデータウェアハウス(DWH)によって、全社横断のデータ分析基盤を構築できる
  • さらに、IoTデータやログデータなども含めて活用するデータレイクハウスへと進化することで、AIや高度分析を支えるデータ基盤が実現する


データのサイロ化を解消することは、データ活用の土台を築き、AIをビジネスの武器に変えることにもつながります。しかし、データ分析基盤の構築は決して簡単な道のりではありません。難易度が高く、データ統合のプロジェクトが頓挫するケースも多く見受けられます。

そこでSTech Iでは「データ分析基盤ソリューション」を提供し、データ活用に関する課題解決を支援しています。お客様の要件を整理し、データ収集から統合、データ活用の定着、AI活用まで伴走します。「専門家の知見を活用したい」とお考えの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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