SAPの2027年保守期限が迫る中、大手商社は膨大なアドオンや人材不足、コスト増大という「ERPのジレンマ」に直面しています。本記事では丸紅の事例を交え、SAPと国産ERP「GRANDIT」を使い分ける「2層ERP戦略」を解説。商社特有の要件を網羅したテンプレート「Natic Trade Master with GRANDIT」の活用により移行コストを抑制し、守りのITから攻めのDXへリソースを転換する最適解をご紹介します。

Index

大手商社を揺るがす「SAP 2027年問題」

2026年2月現在、「SAP 2027年問題」はいよいよ猶予のない「最終局面」に入っています。多くの大手商社でも基幹システムとして利用している「SAP ERP 6.0(ECC 6.0)」の標準保守期限が2027年12月末をもって終了します。これによって生じる一連の社会的・経営的混乱がSAP 2027年問題です。

当初は「2025年問題」と呼ばれていましたが、ユーザー企業の移行の遅れを考慮し、SAP社が期限を2027年末まで延長した経緯があります。
ECC 6.0の利用を続ける場合、次のようなタイムラインになります。

2027年12月末: 標準保守(メインストリーム・メンテナンス)が終了
2028年〜2030年: 「延長保守」(有償オプション)。保守料金に2%の追加料金を支払うことで、2030年末までサポートを継続可能。
2031年以降: カスタマー固有の保守へ移行。実質的にセキュリティパッチや法令対応の更新が止まる

そのため、SAP利用ユーザー企業は、次世代基盤である「SAP S/4HANA」や他のERPパッケージへの切り替えを迫られています。
単なるIT基盤の更新に留まらず、投資対効果を最大化し、商社DXを推進できるか。大手商社は今、将来の競争力を左右する極めて難しい舵取りを迫られています。

総合商社が抱えるERP運用のジレンマ

ERPの移行を機に投資対効果を最大化するには、総合商社が抱えるERP運用のジレンマを解消する取り組みが必要です。

1.アドオン開発による移行コスト増大とベンダーロックイン

商社のERPにアドオン(追加開発)が爆発的に増えてしまうのは、商社特有のビジネス構造と標準ERPの設計思想との決定的な「ズレ」があるためです。多くのグローバルERPが製造業をモデルとした「在庫中心」の設計で、モノが入荷する前に売買が決まる「契約中心」の商社のビジネスとは大きなギャップがあります。

膨大なアドオン開発が施されたERPシステムはブラックボックス化しやすく、バージョンアップのたびに莫大な改修・検証コストを要します。SAP S/4HANAに移行したとしても、数年後には同製品への新バージョンへ移行しなければなりません。繰り返し高負荷の移行作業を回避し、スムーズな商社DXを実現するには、アドオン開発を抑制する必要があります。

アドオン開発の増大は、特定のベンダーしか仕様を把握できない「ベンダーロックイン」状態を招きます。その結果、価格交渉力の低下や、他社への乗り換えが困難になるリスクが増幅しています。本来、ビジネスの柔軟性を高めるはずのITが、逆に変化を阻む「負の遺産(テクニカルデット)」と化しているのです。

2.SAP人材の不足

2026年の今、日本中の大企業が同時にプロジェクトを動かしています。本来なら数年かけて分散されるべき需要が一時期に集中し、供給(コンサルタント数)が完全にパンクしています。優秀なコンサルタントの月額単価は数年前の1.5〜2倍に達しており、商社DXに向けたIT予算を大幅に圧迫しています。

3.「維持費」と「攻めのIT」との予算争奪

さらに深刻なのが、IT予算の配分構造です。現状、多くの商社では予算の大部分が現行システムの維持・運用といった「守りのIT」に費やされています。その結果、データドリブン経営の実現やAI活用、新規ビジネスモデルの創出といった「商社DX(攻めのIT)」へ十分な投資や人材を振り分けられないという、構造的な課題を抱えています。

この「2027年問題」を、単なるシステム更新ではなく、過剰なアドオンを削ぎ落とす「スリム化」と「投資構造の刷新」の好機と捉え直せるかが、次世代の商社DXの成否を左右する分岐点となるでしょう。

【事例解説】丸紅に学ぶ「GRANDIT」と「SAP S/4HANA」の2層ERP戦略

ここでERPのジレンマを解決するべく「2層ERP(Two-Tier ERP)」を選択した丸紅株式会社の事例をご紹介します。日本を代表する総合商社である丸紅は、20年以上にわたってSAP ERPを運用してきました。そしてSAP 2027年問題に直面したとき、同社は業界の定石とされていた「グローバル一括SAP導入」の見直しに踏み切りました。同社が選択したのは、「SAP S/4HANA」と国産ERP「GRANDIT」を複合的に活用する高度な「2層ERP戦略」による商社DXの基盤づくりです。

【深刻な課題】 アドオンの泥沼化

丸紅が直面していた最大の壁は、5000本以上にまで膨らんだアドオンプログラムです。過去にECC 6.0への移行を経験したときには、約3年の期間と大きなコストが必要でした。またシステムが複雑化したことで、保守・運用効率や変化に対応する柔軟性が低下していました。

【解決策】 最適解を組み合わせる「2層ERP」への転換

丸紅はこの課題に対し、すべての業務を一つのシステムに詰め込む「シングルインスタンス」の方針を大胆に転換しました。

・領域ごとの棲み分け

海外の全領域と高度なガバナンスが求められる単体(丸紅本体)の会計領域はSAP S/4HANAに移行。日本の商慣習への柔軟な対応が求められる国内営業領域と事業会社の会計領域には国産ERPの「GRANDIT」を採用しました。

・2層構造の構築

海外・単体(丸紅本体)と、スピード感が求められる各事業会社・事業部単位でERPを使い分ける構造を確立。これにより、全社一律の重厚長大なシステムに縛られない、商社DXに適した柔軟な運用を可能にしました。

【もたらされた成果】 スピード、コスト、そして柔軟性

この戦略的転換は、単なるコスト削減以上の成果を丸紅にもたらしました。

・開発費の削減

GRANDITの導入によって、SAP S/4HANAで再構築した場合と比較すると、開発費が3割以上削減したと試算されています。

・開発リソースの分散と最適化

全社一斉導入ではなく、事業単位で個別に導入を進める手法(ロールアウト方式)を採ることで、IT部門の開発リソースを分散。プロジェクトのパンクを防ぎ、着実な移行を実現しました。

・「丸紅版テンプレート」による高速展開とコスト抑制

GRANDITをベースに商社特有の機能を盛り込んだ「丸紅版テンプレート」を自社開発。これを活用することで、導入期間を劇的に短縮し、導入コストの抑制に成功しました。

【結論】: DX時代に求められる「持たざる」システム戦略

丸紅の事例は、グローバルERP一括で移行するのではなく、日本の商習慣に強い国産システムを戦略的に組み合わせることで、「守りのIT(現行システムの維持管理)」を効率化し、その分を「攻めの商社DX」へと転換した好例といえます。

なぜ「GRANDIT」が商社業務の最適解となるのか

丸紅でも運用されている国産ERP「GRANDIT」は、日本のビジネス現場に最適化された操作性と高度な機能を兼ね備えた、純国産の統合業務パッケージとして確固たる地位を築いています。外資系ERPが台頭する中で、なぜGRANDITが多くの企業に選ばれ続けているのか。その理由は、独自の開発体制と現場目線の機能性にあります。

GRANDITが多くの企業に選ばれ3つの理由

理由1:商社・専門商社に選ばれる「現場力」

理由2:標準装備された強力な「ワークフローと帳票機能」

理由3:「GRANDITコンソーシアム」による永続的な進化

1.商社・専門商社に選ばれる「現場力」

GRANDITの最大の特長の一つは、総合商社のグループ会社や専門商社における圧倒的な導入実績です。これらの業界では、輸出入を伴う複雑な取引や、在庫・物流の緻密な管理、さらにはグループ経営における連結会計への対応が求められます。GRANDITは、こうした商社特有の商習慣を標準機能で広くカバーしており、アドオン開発を最小限に抑えつつ、業務の精度とスピードを向上させることが可能です。

2.標準装備された強力な「ワークフローと帳票機能」

多くの海外製ERPでは、承認フロー(ワークフロー)や高度な帳票出力(レポーティング)を行うために外部ツールの導入や多額のカスタマイズが必要になるケースが少なくありません。しかし、GRANDITはこれらを標準機能として内包しています。

ワークフロー
日本企業特有の複雑な承認経路にも柔軟に対応し、ペーパーレス化とガバナンス強化を同時に実現します。

レポーティング
現場が必要とする多彩な帳票テンプレートを標準装備。データの可視化を容易にし、迅速な経営判断をサポートします。

3.「GRANDITコンソーシアム」による永続的な進化

GRANDITを支える最もユニークなしくみが「GRANDITコンソーシアム」です。これは複数の有力なSIベンダーが結集し、共同で製品開発・保守を行うエコシステムです。一社の開発力に依存するのではなく、多くのパートナー企業が持ち寄る「現場のリアルなニーズ」を絶えず製品へとフィードバックしています。 これにより、法改正やインボイス制度への対応はもちろん、最新のITトレンドを迅速に吸収しながら、常に「市場の最適解」であり続ける進化を可能にしています。

SAPなどのグローバルERPからの乗り換えや、商社DX推進の基盤として、GRANDITは日本企業にとって「かゆいところに手が届く」強力な選択肢といえるでしょう。

商社業務テンプレート「Natic Trade Master with GRANDIT」でコスト抑制

STech Iは、丸紅のGRANDIT導入と丸紅版GRANDITのテンプレート開発を支援しました。そして丸紅版GRANDITをベースとしたアドオンテンプレート「Natic Trade Master with GRANDIT」を提供しています。その核心は、単なる機能の提供にとどまらず、日本を代表する総合商社である丸紅をはじめ、多くの商社への導入実績を通じて培われたSTech Iの高度な実務ノウハウが凝縮されている点にあります。

商社の「リアル」を反映した3つの特長

「Natic Trade Master」は、商社ビジネスに不可欠な要素を以下の3つの柱で支えています。

特長1.商社の高度な要件を標準化

商社特有の多種多様な取引種類・種別による煩雑なプロセスをシンプルなフローで実現します。

特長2.業界特有の業務要件への適応

化学品、機械といった取扱商品ごとに異なる独自の業務要件(業界対応帳票や検収条件対応など)にも、テンプレート化された機能で柔軟に対応可能です。

特長3.GRANDIT標準の柔軟性を維持

独自の拡張を行いながらも、ベースとなるGRANDITの柔軟なアーキテクチャを損なわない設計となっており、将来のシステム拡張やアップグレードを容易にします。

導入がもたらす劇的な「経営効果」

本テンプレートを活用することで、企業は従来のスクラッチ開発や大規模カスタマイズを伴うERP導入と比較して、圧倒的なメリットを享受できます。

効果1.アドオン開発抑制によるTCO削減

商社業務に必要な機能があらかじめ備わっているため、ゼロからの開発工数を大幅に削減。一般的なERP導入に比べ、総保有コスト(TCO)を抑えることが可能です。

効果2.業務のシンプル化と一元管理

多様な取引種類や種別を1画面に統合。煩雑な画面遷移をなくし、直感的な操作で業務を完結できるしくみを提供します。

効果3.「契約別損益」のリアルタイム把握

契約時点から売上・仕入計上時点に至るまで、各契約の損益情報を即座に可視化。迅速な意思決定を強力にサポートします。

効果4.ガバナンスと標準化の両立

ワークフロー機能の強化により、内部統制要件をクリアしつつ、属人的になりがちな業務プロセスの標準化を実現します。

商社DXへの波及効果:攻めのIT投資へ

本製品の導入は、単なる「システムの刷新」に終わりません。それは、商社が真のDXへと踏み出すための「リソースの転換点」となります。

そして、何より重要なのは、TCO削減によりデータ活用や新規ビジネス創出といった「本来の商社DX」へとシフトできる点です。

「守りのIT」から「攻めのIT」へ。Natic Trade Master with GRANDITは、次世代の商社経営を支える強固な基盤となるでしょう。

FAQ:ERP移行に関するよくある質問

ERPの移行やGRANDIT、Natic Trade Master with GRANDITについてよくある質問をまとめました。

Q1. 2層ERP(Two-Tier ERP)戦略のメリットは何ですか。

「全社SAP」という無理な計画を、現実的な「適材適所」に変えられる点です。 本社はガバナンス重視でSAP、国内子会社や特定事業部はコストと使い勝手重視でGRANDITなどの国産ERPを導入する手法です。SAPコンサルタント不足の影響を最小限に抑えることで、移行費用を圧縮できます。一方で、データ連携やERP製品が異なることにより運用負荷が増える点などは注意する必要があります。

Q2. 海外製ERP(SAPなど)と比較して、GRANDITの最大の強みは何ですか。

「日本特有の業務」が標準機能で完結することです。 海外製ERPではアドオン(追加開発)が必要になりがちな以下の機能が、最初から組み込まれています。

  • 複雑な承認ワークフロー: 日本企業特有の「合議」や「持ち回り」に対応
  • 帳票作成機能: 現場が好む「Excelライクな操作」や日本独自の伝票形式
  • マルチカンパニー対応: 1つのシステムでグループ会社複数社を管理可能

Q3. GRANDITの「標準機能」だけでは商社業務は回せませんか。

GRANDITの標準機能のみでも商社業務の運用自体は可能です。

ただし、商社では契約別の損益管理や諸掛按分など、取引ごとの収益を細かく把握する業務が求められるケースが少なくありません。そのため、標準機能で対応する場合は複数の画面や処理を組み合わせて運用する必要があり、業務上の手数や工数が増加します。

その点、「Natic Trade Master with GRANDIT」を活用すると、商社業務に特化した機能が用意されており、契約別損益の可視化や諸掛按分などの処理をより効率的に行えるようになります。

まとめ:次世代の商社経営を支える柔軟な基盤への転換を

それでは各章を振り返りましょう。

  • SAP 2027年問題により、次世代基盤である「SAP S/4HANA」や他のERPパッケージへの切り替えを迫られている
  • 大手商社では過剰なアドオンを抑制し、人材不足や移行コストを削減し、攻めのITに予算を投資しなければならない
  • 丸紅株式会社では、グローバル全体でSAPを一括導入するのではなく、国産ERP「GRANDIT」を複合的に組み合わせることで、開発リソースを最適化し、コストを抑えることができた
  • 国産ERP「GRANDIT」は、独自の開発体制と現場目線の機能性で、多くの商社で導入されている
  • さらに商社業務に特化したアドオンテンプレート「Natic Trade Master with GRANDIT」によってTCOを削減し、攻めのITに投資を配分できる

STech Iは、GRANDITの企画構想段階から開発に携わり、コンソーシアムメンバーで最長の導入経験があります。また親会社を含めた双日グループをはじめ、商社関連企業へのGRANDIT導入実績が豊富です。さらに丸紅版GRANDITをベースにしたテンプレート「Natic Trade Master with GRANDIT」を提供しています。テンプレート活用により、さらにTCOを削減し商社DXを推進することが可能です。ERP移行を単なるITシステム更新に終わらせたくないとお考えの方はぜひ一度ご相談ください。

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