近年、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、業務効率化や生産性向上を目的としたシステム導入を進めています。クラウドサービスやSaaSの普及により、さまざまな業務システムを比較的短期間で導入できるようになりました。
その一方で多くの企業が直面しているのが、「導入したシステムが十分に活用されない」という問題です。
本来、DXの目的はシステムを導入すること自体ではなく、デジタル技術を活用して業務やビジネスの価値を高めることにあります。しかし、システムが現場に定着しなければ、その効果を十分に発揮することはできません。
そこで近年注目されているのが、「デジタルアダプション」という考え方です。本記事では、なぜ企業でシステムが定着しないのかという背景を整理したうえで、DX時代に重要性が高まっているデジタルアダプションの考え方と、その実現を支援するしくみについて解説します。
多くの企業で共通して見られるのが、導入したシステムが十分に活用されないという問題です。その背景には、ユーザーが日々の業務の中で感じる「使いにくさ」や「分かりにくさ」といった障壁があります。こうした、デジタルツール利用時に生じる手間やストレスは「デジタルフリクション(デジタル上の摩擦)」と呼ばれます。
例えば、操作方法が直感的でない、必要な機能にたどり着くまでに複数の画面を行き来しなければならない、といった状況が重なると、ユーザーの負担は大きくなります。
このようなフリクションが蓄積すると、従業員は新しいシステムに対してストレスを感じやすくなり、不満や戸惑いなどの否定的な感情を抱く原因になります。その結果、せっかく導入したツールも十分に活用されず、本来期待していた業務改善や生産性向上が実現できなくなる可能性があります。ツールが増えるほど便利になるとは限らず、使いこなせなければ、かえって現場の負担を増やしてしまうことにもつながります。
このような状況では、新しく導入されたシステムが組織の中で十分に定着せず、現場で十分に活用されないまま終わるケースは少なくありません。組織にシステムが定着する割合は3割程度にとどまることが多く、ITへの投資がムダになってしまうという問題が生じています。
システムの導入後、社内での利用状況を正確に把握できている企業はどれほどあるでしょうか。実際にどの機能が使われているのか、ユーザーがどこでつまずいているのかといった詳細まで、把握できているでしょうか。
システムの利用状況が見えない状態では、現場に定着しているのか、十分に活用されていないのか、どんな部分がボトルネックになっているのか、判断できません。企業は知らないうちにさまざまな問題を抱えることになります。
実際には、ほとんど使われていないSaaSのライセンス費用を払い続けていないでしょうか。システムの活用度を把握したうえで、契約の更新やプラン内容を精査することで、IT活用は効率化し、DXを加速させることができます。
本来であればシステムで効率化できる業務が、従来の方法のまま残っている可能性があります。システムのメリットを十分に活かせず、業務改善の機会を逃してしまうことは、企業にとって大きな損失です。
操作方法が分からないユーザーが増えると、IT部門やサポート担当への問い合わせも増加します。本来であれば戦略的なIT活用やDX推進に割くべき時間が、日々の操作サポートのために消費されるケースが少なくありません。
では、そもそもなぜ新しいシステムは企業の中で定着しにくいのでしょうか。背景には、ユーザーがシステムを利用する際に直面する心理的・物理的・環境的な障壁があります。
新しいシステムが導入されると、ユーザーは業務の進め方を変える必要があります。しかし人は一般的に、変化やリスクを避け、慣れ親しんだ方法を維持しようとする傾向があります。いわゆる現状維持バイアスです。
これまでExcelや既存システムで問題なく業務をこなしていた場合、「わざわざ新しいツールを覚える必要があるのか」という心理が働き、新しいシステムへの移行が進まないことがあります。このような心理的抵抗は、システム定着を妨げる大きな要因の一つです。
操作法を理解できないなど、ユーザーの学習負担も大きな問題です。忙しい業務の中で、複雑なシステムの使い方を習得するのは簡単ではありません。十分な定着の措置が取られていない場合、ユーザーの負担が増大し、結果としてシステムを使わなくなってしまう可能性があります。
さらに、ユーザーを支えるサポート体制が十分でない場合も、システム定着を難しくします。操作方法が分からないときにすぐに相談できる環境がなければ、ユーザーは問題を自己解決できず、システムの利用を避けるようになります。
一方で、サポート体制の充実は、前述の問い合わせ対応など、情報システム部門の負担増につながる可能性もあります。労働力が限られるなかで十分なユーザーサポートを提供することが難しく、システム定着を妨げる要因となるケースがあります。
多くの企業で問題となっているのは、こうした「システムと人間のギャップ」です。解決するには、二つのアプローチが必要となります。
まず、ユーザーにとって心理的、物理的な負担の少ない直感的に操作できる環境を構築すること。そして、IT部門が最小限のリソースでユーザーの声を把握し、データに基づいて迅速にシステム改善を進められるしくみを確立することです。
ユーザーサイドと管理サイドの双方から、効率的に「システムと人間のギャップ」を埋めることこそが、DX投資効果を最大化するための鍵となります。
新しいシステムを企業に定着させるためには、業務の中で自然に使いこなせるようになるまで支援しなければなりません。そこで注目されるのが、システムの「オンボーディング」のプロセスです。
オンボーディングとは、ユーザーが新しい環境や制度、ツールなどに慣れ、スムーズに参加、活用できるようになるまでの学習・支援を指します。システムの定着化においても、適切なオンボーディングプロセスを設けることで、定着率が高まり、DX投資の効果を最大化することにつながります。
システムのオンボーディングを成功させるためには、いくつかのポイントがあります。
まず重要なのは、システムを使うことで得られるメリット、業務上の意義をユーザーに理解してもらうことです。業務がどのように効率化されるのか、どのような価値が生まれるのかを明確に伝えることで、ユーザーの納得感と利用意欲を高めることができます。
従来のように一度きりの説明会や研修で操作方法を伝えるだけでは、現在の複雑なシステム環境において十分とは言えません。オンボーディングを単発の施策ではなく、継続的にユーザーを支援できるしくみへと転換する必要があります。
ヘルプコンテンツやFAQの整備に加え、後述するデジタルアダプションプラットフォームなどを活用することで、ユーザーが必要なタイミングで情報を得られる環境を構築できます。これにより、ユーザーは業務の中で自然にシステムを習得できるようになります。
ユーザーにシステムの利用を促すためには、評価や表彰などのしくみを設けることも有効です。例えば、システムの活用度を評価指標に組み込んだり、活用度に応じたインセンティブを設けたりすることで、組織全体の利用促進につながります。
ユーザーの習熟度に応じて、段階的なオンボーディングを設計することも重要です。初回利用時には基本操作を理解できるように支援し、日常利用の段階では効率的な使い方を提示する、さらに応用利用の段階では高度な機能の活用を促すといったように、利用状況に応じたサポートを提供することで、ユーザーのスキルを段階的に高めることができます。
例えばシステムの操作がマニュアル前提になっていれば、それ自体がユーザーにとって大きな心理的負担となります。学習コストが高くなり、利用のハードルも上がってしまいます。
そのため、「マニュアルを読ませる」のではなく、システム画面上で操作をナビゲートするアプローチが重要になります。ユーザーの操作に合わせてガイドやヒントを提示することで、実際の業務の中で自然に理解が進み、システムの定着を促すことができます。
「システムと人間のギャップ」を埋め、ユーザーが業務の中で自然にシステムを使いこなせるようにするのがデジタルアダプションです。
デジタルアダプションとは、ユーザーがデジタルツールや業務システムを効果的に活用できるように支援し、組織全体でのシステム定着と活用を促進する取り組みを指します。単にツールを導入するだけではなく、ユーザーが実際の業務の中で迷わず使いこなせる環境を整えることで、DX投資の効果を最大化することが目的です。
研修やマニュアルに加え、動画やeラーニング、ハンズオンなど、システムの使い方を学ぶための手法は多様化しています。しかし、ツールの数や機能が増える現代の業務環境では、こうした手法だけでは対応しきれなくなっています。
これらは体系的な理解には有効である一方で、実務の中で生じる個別の疑問や操作上のつまずきに、タイムリーに対応することが難しいという課題があります。
こうしたデジタルアダプションを実現するオンボーディングツールが、デジタルアダプションプラットフォーム(Digital Adoption Platform)です。
デジタルアダプションプラットフォームは、既存の業務システムやSaaSの画面上に重ねて利用することで、元のシステムを改修することなく、ユーザーの操作をガイドしたり、利用状況を分析したりすることができるプラットフォームです。既存の環境をそのまま活かして導入できるため、システム開発や改修の負担を抑えつつ、ユーザー体験の改善を実現できます。
ユーザーが実際にシステムを利用する画面上で操作支援を行うしくみで、業務の中で自然にシステムの使い方を習得できるようになります。
ユーザー体験改善プラットフォームでもあるデジタルアダプションプラットフォームには、システムの定着支援、活用促進をサポートする主に3つの機能が備わっています。
デジタルガイド
システム画面上に操作ガイドやヒントを表示し、ユーザーが迷わず作業できるようにサポートします。画面上にガイドやツールチップ、入力補助などを表示することで、「次に何をすればよいのか」「どこに何を入力すべきか」といった判断をその場で支援します。
これにより、ユーザーはマニュアルを探したり、操作に迷って作業を止めたりすることなく、業務の流れの中でスムーズに操作を進めることができます。結果として、操作ミスの削減や作業時間の短縮につながり、システムの定着が促進されます。
システム利用分析
ユーザーがどの機能をどの程度利用しているのか、どこで操作につまずいているのかといった行動データを分析できます。これにより、システムの活用状況を可視化し、改善ポイントを把握することが可能になります。
アンケートなどの差し込み
システム画面上でユーザーアンケートを実施したり、フィードバックを収集したりすることもできます。現場の声を直接収集することで、より実態に即した改善につなげることができます。
デジタルアダプションプラットフォームを導入することで、企業はシステム活用に関するさまざまな課題を解消できます。主なメリットとしては、次のような点が挙げられます。
業務システムには多くの機能が備わっていますが、実際にはその一部しか使われていないケースも少なくありません。DAPを導入することで、ユーザーが必要な機能を画面上でガイドされながら利用できるようになり、システムの本来の価値を引き出すことができます。結果として、業務の効率化や生産性の向上につながります。
新しいシステムを導入する際には、ユーザー教育やマニュアル整備、問い合わせ対応など、多くの工数が発生します。特に、導入初期は操作方法に関する問い合わせが集中し、情報システム部門や管理部門の負担が大きくなりがちです。
デジタルアダプションプラットフォームを活用すれば、操作ガイドやチュートリアルを画面上で提示できるため、ユーザーが実際の業務の中で自然に操作を習得できるようになります。また、ユーザーがその場で疑問を解消できる環境を整えることで、問い合わせの発生自体を抑えることが可能になります。
これにより、導入時の教育コストやオンボーディング負荷、問い合わせ対応の工数を削減し、IT部門の負担軽減につながります。
デジタルアダプションプラットフォームを活用することで、ユーザーの利用状況や操作傾向を可視化できるようになり、システムの定着状況を客観的に把握できるようになります。
その結果、ユーザーがつまずいているポイントや活用されていない機能を特定し、改善施策を迅速に検討できるようになります。
デジタルアダプションを実現するためのソリューションとして、双日テックイノベーションが提供しているのが「UX Canvas」です。UX Canvasは、既存の業務システムやデジタルサービスに追加することで、ユーザーの操作を支援し、システムの定着と活用を促進するユーザー体験改善プラットフォームです。
UX Canvasの特長
UX Canvasの大きな特長は、企業のシステム環境や課題に応じて、現場主導で必要な機能を柔軟に組み合わせて導入できる点にあります。
ノーコード・5ステップで簡単にガイドを作成
専門的な開発スキルがなくても、ノーコードで操作ガイドを作成できます。5ステップのシンプルなプロセスでガイドを設定できるため、現場の担当者でも簡単に運用できます。
必要な機能を“選んで導入”できる柔軟な設計
企業ごとに異なるシステム環境や運用課題に合わせて、必要な機能を選択して導入することができます。コストを抑えたスモールスタートでの利用が可能です。
アンケート結果を柔軟にカスタマイズ表示
ユーザーアンケートの結果をシステム改善やUI/UX改善に活用できるよう、状況に応じたカスタマイズ表示が可能です。
DXを成功させるためには、システムを導入するだけでなく、現場で継続的に活用される環境を整えることが重要です。そのためには、ユーザーが操作に迷わない「迷わせないしくみ」を用意し、システム定着を支援することが欠かせません。
デジタルアダプションは、こうした環境を実現するためのアプローチであり、DX成功のラストワンマイルを支える取り組みと言えます。
ユーザーの声や利用状況をもとに改善を回していくことで、システムはより使いやすくなり、DX投資の効果も高まります。まずは、自社のシステム定着のあり方を見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。
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